第四十六回

「えー! 何か小袖じゃん」
「うっそマジでー、あホント小袖だし、うわ超びびった」

 賑々しい声に目を見張った小袖、五千の大隊の中にすでに懐かしく思える友達の姿見つけて駆け寄る。
「お染! まりん!」

「なにアンタ軽く行方不明で何でこんなとこいるわけ。素で疑問」
「アタシもご同慶の至り」

「真珠郎様を追ってきたの! この辺りで消息絶ってるから、手がかりを探してるのよ」

 ほう、と娘っ子のさえずり聞いた銅鑼衛門、深く得心の笑み。
「やはり、もくてきはおなじ。しんじゅろうどののだっかんであるな。こそでどの、して、このさきのゆくえはなんとごろうじる」

 は、とイケてるさむらいに振り返る小袖、す、と白魚の指閃かせて夕日沈む道の彼方をさす。
「あちらよ。真珠郎様はそこの汚い小路を何者かに引っ立てられたの。西に曲がって、引きずられた足跡が残っているわ」

 む、とタロット見た銅鑼衛門も同意の頷き。
「みなのもの、うかうかとはしておられぬ。ゆくぞ。こそでどのも、ごくうどのも、さてはごいっしょに」

「ご一緒に」小袖きっぱり。
「ゴー・ゴー・ウエストだゾ」と伍空。

 暮れる夕景に突如どこからか陽気なカントリー・ウェスタンのBGMが響き渡る。

第四十七回

 蝦夷がアツイぜ!
 口コミが口コミを呼び、噂が噂を生んで、人民の間に北上フィーバーが燃え上がりかけている。
 われも、われも。

 江戸を騒がせた人気の義賊、ヨシノブ戦隊ショーグンジャー、が歌舞伎座占拠を鎮圧。した勢い余って、逆賊の本拠地攻め破らんと、ババンババンバン蝦夷地に向かっているらしい。

「おう、俺ぁヨシノブズにエロビを恵んで貰った恩義があるからな。かかぁを質に置いても馳せ参じるぜ」
「おめぇカミサンいねぇだろうが。え、八っつあんよ」
「喧しい、このおんぼろ長屋の非モテ系の熊さんが。オイラにゃ脳内妻がいるってえの。はは、『シンジ君負けないで、今こそ前線に立つのよ』っつってレイちゃんが応援してくれてるぜ。オタク妄想万歳」
「お前さん綾波を質に入れるってえのかい」

 無謀な会話があって、

「旦那様。あたくし、お暇を頂きとう御座います」
「いやさ、お隅さん。何とて、年季も明けずにその沙汰は」
「あたくし、本当はひらがなざむらい様についていきとう御座ったんでありまする。さりとてこのお屋敷の乳母のお役目が。よよよよよ。一度は諦めたこのチャンス、この度はどうぞどうぞ生かしとう御座います。お若き素敵剣士に萌えー。萌えー。よよよよよ」
「あれ、この負け犬お女中がー!」

 滅茶な会話もあって、

 ともかく条理ぶっ飛ばして彼の者もろとも進軍。

 引きこもり男児も生きがいわからない系女子も、自分探しの果てにヨシノブズ及びひらがなざむらいを発見、カリスマ感じて屹立。追随すればなんとかなる、人生開ける感ばりばりに盛り上がって決意。我ら今こそ一斉蜂起。
 居場所のない人生なんてかりそめのもの、熱意もって動くムーブメントに乗ったらきっと、新しい、自分に、出会え出会え皆の衆。

 うおおおお、幕府統制とお江戸の表向き華やか文化に抑圧された人民層、まるで団結せずにばらばらと、ええじゃないかええじゃないかと叫びながら個人個人の思惑もってひとつところに駆けつける。

第四十八回

「ここな、いそ」
「いやさ、は」
「たれば、はや」

 タロットをばんばんめくる銅鑼衛門と、直感ざんざん使って真珠郎の行方をサーチする小袖、すでにまともな会話のできる速度を越えてオノマトペめいた単語を発しながら、視線だけで了解とって同じ道を進み続ける。超速。ほぼ全力疾走。

 後続の軍勢、どたどたと揃わぬ足音を響かせながらひー、とか叫んで後を追う。

 薄闇にけむる函館の町並。
 異様きわまりないひらがなざむらいオールスターズの進軍に恐れをなして、タウンはぴったり戸を閉てきって静まり返る。もはや戒厳令状態。

「こちに」
「いよ」
「さすらば」
「えたり」

 小袖と銅鑼衛門、同時にひとつの建物見つけてぴた、と歩を止める。追っかけの五千人どどどどとつんのめってドミノ倒し。

 江戸の小娘と放浪の武者が揃ってすらりと指差すは、古代紫の瓦に蛍光イエローの壁が奇怪極まるコテージ。怪しさ丸出しのアパートメント。入り口にはろしあの旗が翩翻とひるがえっている。これでバレないと思うユーリャの心根こそめでたきかな。

「ここよ」
 きっちり言う小袖、袂からさくりと手裏剣取り出し思いっきり戦闘の構え。
 なんとなれば江戸のモテ系ギャル侮り難し、ガールスカウト・ブラウニー時代より叩き込まれたる根岸流手裏剣術の使い手。

「いざ」
 余裕の笑みで構えたる銅鑼衛門、名刀・野火乃鐚きらめかせてアドレナリン噴出させる。

「おっ、キター!」
 叫ぶ後陣のお染とまりん、ニヤリ笑んでセクシーコマンドーの型を取る。

 坤若丸、す、と息吸い腰の鋭剣抜き放ち、

 佐如介びりりと指令放ちつぶっとい牛刀腰だめに構え、

 軍勢それぞれに得意のポーズ決め、
 一致団結で突入の気配。

第四十九回

 盛り上がる蝦夷と民衆のええじゃないか北上をよそに、進退きわまった幕府都城ビル。
 今さらながら、主水はメカ・ヨシノブの斬首処分を後悔していた。

 ええい。傀儡と言えども、本物そっくりのからくりを残しておけば、少なくとも謁見の間だけは事態をごまかせたものを。
 真のヨシノブ様のご不在が知れ渡っては、すぐにでも尊皇派が攻め上り倒幕の危機と相成りかねぬ。やばいやばい。

 将軍様に関する言説を禁じる法令をすぐさま発布したものの、なんとなく疑惑感じた敵対勢力が、様子伺うためにぞろぞろと押し寄せる。ヨシノブ様へのお目見えを願い出る。まずいまずい。
 なんとかヨシノブ様が、ここにいるように見せかけねば。

 街場には与力・同心かき集め、おかしげな噂を流したものはすぐさま捕えて人足寄場に送るシステム立ち上げた。
 ショーグンジャーを追っててんでに旅に出たええじゃないか衆を征伐する捕り物班、だめじゃないかだめじゃないかと叫びつつ十手振り回してチェイス。

 都城の謁見の間では、どうにか首をつなぎ合わせたメカ・ヨシノブの後ろに主水本人が二人羽織、文楽よろしく応対をする。

「京都所司代より、傑平萬様が御登城ー」
 どおんどおんと鳴り物響き、卓見謁見で知られた所司代様が広間に入場する。
 主水汗だくになりながらメカ・ヨシノブのボディを支える。
 ははあ、と平伏した後、傑平ゆったり座を正して将軍に向き直る。

「日ノ本の誉れも高き将軍様に置かれましては、本日も顔色宜しく居住まい麗しくはて結構至極に御座いまする」

 なんでもいいから早く話すませちゃって、と願う主水に現実は厳しい。
 傑平萬は余裕のコミュニケーションを重んじる男。球団再編の話やら越後の震災復興の話題を振ってその場を和ませようと素敵なトーク。
 横に控えし、事情知ったるスペンサー左衛門、おほんおほんと咳払い。失礼ながら、と割って入る。

「申し訳ありませぬが、ヨシノブ公は流行の酉インフルエンザに御罹患なされて、体調お悪しくお声も発せられぬ有り様。何卒、お話は簡潔に。そして将軍のご返答は、それがしがお手元の書面より読み下しお伝えいたしまする」

 ナイス、スペンサー、と、主水が二人羽織の陰から小さく親指を出す。

「ほう、それはそれは」
 眼を丸くした傑平、鋭い眼差しでまじりと殿の顔を見る。

第五十回

「気づかず、失礼申し上げました。それではこの日の本題語り申させて頂きますれば……」
 傑平、話やっぱり長い長い。

 必死の主水、話にあわせてちょと頷いたり、いやいやとかぶりを振ったりとメカ・ヨシノブの身振りに骨折る謁見シチュエーション。
 からくりヨシノブ、頭つないだら内蔵バッテリーの残存電力が作動し始めたのか、時に主水の操り裏切って腕が勝手にYMCA、慌てて止めれば首がぐるりと百八十度回転したり、まことに面倒極まりない。

 さすがに怪しんで首ひねる傑平、それでも礼儀失わず謁見終えて、さすらばさすらばと城中を辞する。

 ほっと脱力して後ろのめり、傾いてきたメカの頭部をがつんと殴って押し戻す主水と、命からがらだぜ、とため息をつくスペンサー左衛門、を背後に振りかえりつつ、
 傑平は伴の者にさらりと耳打ちする。

「あれは、偽者よな」

 は、と礼する所司代の士、やっぱ、と胸の内で呟く。
 切れ者の傑平、複雑な心中を面に出さずスピーディー思考しながら高速エレベーターを下る。

 ヨシノブ様、確かに偽者。御隠れになったのか、頭首として使えなくなったのか。それを取り繕うのに江戸は必死になっている。
 さあ、どう出るか佐幕、倒幕おのおのがたよ。そして政治なんかどうでもいい民衆の皆様方よ。この世はどう動く。明日の日の出はどうとなる。

 わりにリベラルで権勢に左右されない傑平、城舎を一歩出たところでぱっと懐から扇を出し、はたはたと胸元を扇ぐ。

 変転の、世に生きるのも仕合わせなりき。

「どうなさいました、傑平様」
 供が訊くのにかっぱり笑い、

「何を、どうもせぬ。……見よ。この青空。雲の流るるように世は変わる、慌てて身を揺らがしてもどうともならぬ。……アスタマニアーナ、ラテンのリズムで京に戻るとしよう」
 そのひと言に、響き始めるサンバの拍子。
 傑平様、扇打ち振りながら陽気な行軍の一身となる。


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