13・理科部の使命、ソーダ水とカルメ焼き


「もしもし。こんばんは。あたし、きのうの、落としものをひろった中学生です」

「あ、あーあーあー。あの! いや、きのうはたすかりました。どうしましたかな、呪いのいじめのうわさでも聞きましたか」

 電話の声は、きのうより全然しっかりした印象だった。会社にかけたらもう帰ったあとで、ホテルのフロントからおじさんのへやにつないでもらったのだ。
 あたしは呪いのいじめにも興味があったのだが、そのはなしではない、おじさんにことわった。

「あの。おじさんは、東荻第五中学校一年C組の、小泉カツノリ君のおとうさんですか」

 電話線のむこうで、びくり、とすくみあがるような気配があった。ちょっと沈黙。

「……はい、はいはい、そ、そうですが、あー、あなたはいったい……?」

 あたしはクラスメイトであることを告げた。小泉君の不登校を心配して、担任といっしょに家をたずねたことがあると伝える。

「担任。あの、た、担任は、なんという先生なんですか」
 せいた、もつれるような口調でおじさんはきく。

「え。担任、だれだか知らないんですか」

「知らないんですよ。家のことも学校のことも、ぜんぶあれにまかせておいたらこんなことに。どこに相談していいのか、もう、とほうにくれるばかりなんですよ」

 なんだかわからないが、おじさんも相当に混乱しているようだった。
 はっきりとは言わないが、やはり小泉君の身に、あるいはその一家に、なにか尋常ならざることが起こっているらしい。
 学校の場所と(このおじさんはそんなことすら知らなかったのだ!)、担任の名まえを教え、あたしはコバ先生にも伝えておく、とうけおった。
 あとはおとなどうし、じっくり相談してください。
 電話をきる直前、あたしは不意にひらめいた。受話器をつかみなおして呼びかける。
「もしもし? もしもし?」

「……はい? はい、なんでしょうか?」

「おじさんの名刺にあった『ぷらっつ』って、よく家のポストに入ってる情報誌ですよね? 売ります、買います、っていう投稿がのってる本」

「ええ、そうですよ。日本じゅう、地域ごとに情報をまとめて、月に一回無料で配布している、おなじみの『ぷらっつ』です」

「それって、バックナンバーを手に入れることはできますか?」


「ほんとうかあ。そりゃすごい。浜田、お手柄だあ」
 なにがお手柄なのかはわからないが、コバ先生はそう言ってやたらとあたしをほめた。職員室にいるほかの先生たちが、浜田のなにがどうすごいんだ、という顔であたしを見ている。
 小泉君につながるラインが皆無で、コバ先生も行きづまっていたのだろう。小泉君のおとうさんの名刺を見て、太陽のように顔をかがやかせた。

 先生はさっそく電話をかけたらしい。昼休みの終わりごろ、教室に来て、あたしと理貴ちゃんをちょいちょいと手まねきする。
 声をひそめるようにして「小泉のおやじさんな。学校では話しづらいことだと言ってる。それから、できたら同じクラスの生徒にも、話がききたいとのことだ。なんだか呪いがどうとか、いじめがどうとか」

 まだ言うか。あのおじさんは。

「そういうわけでふたりとも、きょう放課後、あのたこ焼き屋に来られるか? 部活があるのか?」
 あたしたちは首をふった。理貴ちゃんとあたしは理科部に入っているが、これはほんとうのところ、帰宅部だ。理科部のただひとつの活動は、文化祭のときに、実験用具でつくったソーダ水とカルメ焼きの屋台を出すことだけである。

もどる

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送