GARBAGE


「立ってたべるの」
「うん」
「暑いのに、あついおそば」
「そう」
「おそばにコロッケがのってるの」
「うん」
「あとで気持ちわるくならない」
「ならない」

「せみ」
「鳴いてるね」
「店のなかでもきこえる」
「ね」
「・・・つめたいおそばのほうが、おいしいよ」
「冷やしたぬき」
「うん」
「おれね、最近つめたいの、だめで」
「たべもの?」
「そう」
「・・・ソウさん、いたでしょ」
「うん」
「さいご、やっぱり冷たいの、食べられなくなったって言ってた」
「うん」
「やばいね」
「やばい」
「どうしてかな」
「受けつけなくなるんだ」
「ああ、からだが?」
「そう」
「さむくてね」
「夏でも」
「うん」

「ソウさん死んだね」
「うん。・・・おどろいた?」
「いや。すごい冷静に」
「あたしも」
「うん」
「ユオちゃんが見つけたって」
「ああ、そう」
「なんども、もう死んでるかみたいな、なんども見てたから、あんまり焦らなかったって」
「ああ」
「きついね」
「うん。・・・わりに気楽に、心臓、鼓動とまってたりするから」
「Sで?」
「うん」
「また動くの?・・・心臓」
「ああ、止まってる、みたいに。・・呼吸、するとゆっくり動きだしたり」
「はんぶん死んでんじゃん」
「そう」

「おそば、わりとおいしい」
「そう。よかったじゃん」
「コロッケの、おいしい?」
「うん」
「はんぶん要らないよ、ひとくちでいい」
「うん」
「・・・つめたいよ、コロッケ」
「だね」
「もういらない」
「そう」
「暑いのにニノって汗かいてない」
「うん。もうかかない」
「よくないよ」
「うん」

「ノアは立ち食いそばははじめてか」
「うん」
「ふつう女の子はこない」
「と思う」
「なに食ってるの、オールしたあととか」
「吉牛とかはわりと行くよ」
「朝定」
「そう。エナとかかなり食べるよ」
「元気そうだもんな」
「めちゃくちゃ踊るでしょ」
「あの子、そうだね」
「元気ぶってるの。レイヴとかも信じられないくらい行くし」
「こないだ、山のと海のと連日したって言ってた」
「ほんと。・・・踊って吉牛ですごい食べてあと、もうみんな眠いのに」
「うん」
「エナだけまだ道で缶コーヒーとか飲もう、って」
「帰らないんだ」
「エナ家が埼玉だから始発おそいかもだけど、・・なんか、必死」
「うん」
「さみしいのかな」
「・・うん、たぶん」
「でも、帰らす?」
「・・・うん。きっと、でも、さみしいのわかる」

「エナの彼って、ロンドン?」
「それ。美容師の、修行とかで行って」
「ああ」
「帰ってこない。これないっていうか」
「おれの友だちも、わりとそういうのいるよ」
「エナぐちるけど」
「うん」
「落ちこむとこ見せなくて」
「逆につかれるね」
「ヒヤマ君、帰ってこれないの、なんでかな」
「うん。・・・帰る理由、見つからないんじゃない」
「なんで」
「あっち行っても、別にすごくなれるわけじゃないから」
「そうかな」
「おれの友だちとかも、ね」
「うん」
「行くときは気負って、でも向こう、ふつうに日常なわけだから」
「あ、そうか」
「うん。なんとなーく、向こうのやつと混じってね」
「ロンドン?」
「でも日常だから。そういう日本人どうしつるんで、クラブ行ったりパーティーしたり」
「・・・こっちと同じじゃん」
「そう」
「・・・変わらないんだ」
「うん。・・だから、帰ってこない」
「そうなんだ」

「おそば、ゆっくり食べるね」
「うん」
「ソウさんもそんな感じになってた」
「うん」
「あたし、さいごのあたり、なまえ間違えられてわりとショックで」
「必死だったんだよ」
「・・・必死、って必ず死ぬ、ってかくでしょう」
「うん」
「そんな感じ?」
「そんな感じ」

「みんなハイだよね」
「うん」
「でも実際、ロウだよね」
「見せないだけ」
「うん」
「ニノも?」
「うん」
「あたしも」
「・・・そう、なんだ」

「みんな死ぬね」
「やりすぎだよ」
「ニノは、死なないでほしいな」
「うん。・・わかんないけど」
「だめだよ」
「うん」
「死なないで」
「いちおう、そうするけど」


「おそばはもういいけど、あたし、おとうふ食べたい」
「うん。じゃあ食券かってくるよ」

「ニノは、やさしいね」
「いや」
「すごくヘンなひとで、こういうおそば屋にあたし連れてきたりするけど、いちいち、やさしい」
「そんなことないよ」
「ぜんぶ、あきらめてるから、って気がする」
「うん」
「なんでも呑んじゃうだね、あたしの言うこと」
「うん」

「冷ややっこ、おいしい?」
「うん、あたしは冷たいもの、まだ平気だから」
「いいね」
「ニノはそんなのびたおそば、まだゆっくり食べてる」
「うん」
「苦しくない?」
「いや」
「つらくない?」
「いや」
「みんな死んでくのに」
「・・・早いね、みんな」
「だれも希望なんてもってない」
「そうかもね」
「お金持ちの子たちはいいよね」
「うん。うらやましいね」
「デザイナーズドラッグ買って、ポルシェでクラブに行き来して」
「さいきん多いね」
「あたしたちはただの貧乏だから、遊んでも明日も見えなくて」
「その日のお金はてきとうに入るよ」
「でもね、みんなそういうことして、やっぱり未来はなにもなくて」
「夢はあるでしょ」
「夢だけじゃん! そう言ってソウさんは四十近くまであのまま生きて、Sのやりすぎで死んだじゃん!」
「うん」
「あたしたち、人生作ってる?」
「つくってない」
「そもそも、人生ある?」
「ないね」
「将来とかある?」
「うーん、どうかな」
「ある?」
「・・・いつか、ヴィンテージの時計の店とか持てたら、いいね」
「そのために今なにかしてる?」
「いや」
「・・・そうだよね」
「ノア、つきつめるとまた鬱になるよ」
「・・・わかってる、わかってるんだけど・・・」

「今日、なにか持ってる?」
「デパスしかない」
「そうなんだ。つまらないね」
「うん」
「夢、描ける?」
「デパスじゃ無理」
「そう」
「S、買う?」
「ソウさんみたいに、なりたくない」
「そうだね」
「あたしね、年金はらってない」
「うん。おれも」
「考えてないね」
「ないね」
「今日は、眠る?」
「仕方ないね」
「今晩、Gのイベント行く?」
「それは行くよ」
「L売る子、たぶん来るよ」
「Eがほしいかな」
「それもたぶん、買えるよ・・・ねえ」
「うん」
「・・・やめた、言わない」
「そう」
「いいよ。もう眠りに帰ろう。おそば、と、おとうふ、おいしかった」
「いいことだよ」
「ニノ、死なないで」
「わかってる」
「目が」
「うん、・・・嘘?」
「だよ」
「ごめん」
「そういう人」
「ごめん」
「苦しくなる」
「わるい」
「ニノ、もし十年後、おたがい生きてたら・・・」
「うん」
「どうする?」
「・・・」
「きこえないよ」
「・・・・・・・」
「ニノ、きこえない。」

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