作文「ぼくの家族」
                          小森 ゆうじ


 うちのお父さんは、ひきこもりです。

 五年前に会社を辞めて、それからずっとうちにいます。
 お父さんのしごとは、まんが家です。
 いつも家でまんがを描いています。
 しめきりになると、担当さんが家にやってきます。
 お父さんは仕事場からそっと手を出して、できあがった原稿をわたします。
 ドア越しに担当さんとおはなしをするときもありますが、いつもだいたい無言です。
 いろいろなうち合わせは、メールや電話でするほうが楽しいらしいです。
 お父さんのまんがは、この前、テレビのアニメになりました。
 すごく人気があるので、ぼくはお父さんがとてもじまんです。
 そしてお父さんは、やっぱりひきこもりです。
 家にいても、ぼくはめったにお父さんを見ることがないのですが、りっぱな人だと思っています。
 だってまんがが、すごく売れているのですから。


 うちのお母さんは、ひきこもりです。

 ぼくを出産していらい、ほとんどうちにいます。
 専業主婦ですが、ウェブデザインのお仕事もしています。
 お父さんとおなじく、よくドアごしに担当さんとお話ししています。
 顔を合わせて外の人とお話しするのは、あんまり好きじゃないみたいです。
 でも、家の中で、家族と話すときは、けっこう明るくておしゃべりです。
 テレビがだいすきです。
 とくにお笑いの番組が、すきみたいです。
 お母さんのごはんはとてもおいしい。ネットやテレビや本で、料理の研究によねんがないのです。
 お母さんは、通販でご飯の材料や服や生活のひつじゅ品を買います。
 とても買い物がじょうずです。
 ぼくはお母さんを尊敬しています。


 うちのお兄ちゃんは、ハードなひきこもりです。

 もう二年ぐらい、ぼくはお兄ちゃんを見ていません。
 いつも自分のお部屋にいます。パソコンで買えないものがほしい時や、いろいろ用事があるときは、ドアの外にメモがはってあります。
 お母さんがそれを見て、なんとかします。
 ごはんや、買ってきたものをドアの前に置いておくと、お兄ちゃんはだれも見ていないときにそっと部屋に入れます。
 そして、からの食器や、新しいメモを、また廊下に出しておくのです。
 ぼくとお兄ちゃんは、すごく仲がいいです。
 まいにち、いろいろなお話をします。メールと、それからネットの中でです。
 ゆうめいな巨大けいじ板サイトの中に、「小森兄弟の会話を見まもるスレ」というのがあって、そこに書きっこをするのです。
 いろいろな人がぼくらの会話を見ていて、あれこれ言ってくれるのがとても楽しいです。
 お兄ちゃんはパソコンやゲームにすごくくわしいので、ぼくはたくさん質問をします。
 なんでもすぐに教えてくれるお兄ちゃんを、ぼくは尊敬しています。


 うちのお姉ちゃんは、わかりにくいひきこもりです。

 いつも家にいて、ずっとお母さんとしゃべっています。
 お姉ちゃんは、ときどき外にでかけます。
 ネットで知りあったおともだちと会ったり、「みっちー」というすきな歌手のコンサートに行ったりするのです。
 でかける前はたいへんです。大さわぎして服をえらび、あれでもないこれでもないと、三かげつ前から悩んでいます。
 髪がたをかえたり、おけしょうをためしたり、しゃべる言葉の台本をかいたり、まゆ毛をぬいたり、吐いてむりにやせたり、なやんだあげくにカッターで手首を切ってしまったり、女のひとってたいへんなんだと思います。
 そして、ぴかぴかにきれいになって、でもげっそりやせた感じででかけていきます。
 帰ってくると、もうたましいが抜けたように疲れて、三日ぐらいねむっています。
 がんばり屋で、外に出るときだけはおひめさまのようにきれいになるお姉ちゃんを、ぼくは尊敬しています。


 ぼくは、こんなぼくのうちが大すきです。

 ぼくも、早くりっぱなひきこもりになりたい。小学校をそつぎょうしたら、すぐにひきこもりの練習を始めたいと思います。
 学校では、ひきこもりのなり方を教えてくれないので、ざんねんですが、ぼくは家族をみて自分でけんきゅうをしたので、きっと上手なひきこもりになれると思います。

 学校や会社に行っていると、よのなかの「へいきん」に合わせないといけなくなります。
「へいきん」とちがう人は、いじめられたり、ばかにされたりして、なかなか生きていけなくなります。
 むりやりに合わせて、おあいそうをしてがんばって、とうとううちのお父さんやお母さんやお兄ちゃんやお姉ちゃんはこわれてしまいました。
 こわれても、命をまもりたいので、ひきこもりを始めてそして上手になったのだと思います。

 ぼくはこわれないうちに、ひきこもりを始めます。
 先生もがんばって、りっぱなひきこもりになってください。



(先生より)

 小森くん、ありがとう。先生が学校に行けなくなって半年たちますが、とても元気が出てきました。
 先生は小森くんのこの作文に、九十九点をあげたいとおもいます。
 なんで百点ではないのかと言いますと、百分の一だけ、先生も、ひきこもりがいいのかどうだか、自信が、もてないからです。

 なお、この作文は、文部省の「小学四年生・わたしの家族・作文コンクール」で優秀作にノミネートされました。
 一等賞がとれると、いいですね。
 聞いたところによると、選考委員長の文部大臣閣下も、もっか、ひきこもりだそうです。


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