西に向かった漫才未満



「どうも、こんにちはー!」
「あ、はい、ニシ君、こ、こんにちは」
「あら? 」
「本日は、よろしくお願い、いたしまする」
「どうかしましたか姐さん、何でツッコミ炸裂しませんのん」
「べ、べつに。平常どおりに運行しております」
「電車やないんやから。なんや様子ヘンですよ」
「あの、ちょっと。関西あんまり来たことなくて、緊張して・・」
「ぎゃ、姐さんが小っちゃくなってるー! 面白ーい!」
「なによ! お、お黙りなさい・・・」
「うわー! 弱気ー!」
「・・それで天下取った気になるなよ、秀吉・・・」
「息も絶え絶えにナニ言うてますのん。おもろ、姐さん自分のフィールド離れるとめっちゃ弱いんですね、はは、ボクが勝てそう」
「く、悔しい・・・」
「はいはいわかりました、ボクがガイドしますから、姐さんは無理せんとついてきてくださいよー」
「ぬううう、悔しすぎる・・・」


「はい、ここが大阪駅ですー」
「あの世界的に有名な」
「有名かどうか知りませんが、まあ駅ですわ」
「エスカレーターの右側に人が乗ってるー!」
「絶叫することやないでしょう」
「関東では左デフォルト」
「知ってます。・・・向こうでさんざん乗りまちがえましたから」
「反転世界に来たみたいだ」
「大げさな。駅のまわり、見てみますか」
「あ、立ち飲み屋、立ち飲み屋」
「なんでそこで記念写真撮りますかね、よくわからん人だわ」
「どて焼き、串カツ、生キャベツ、二度づけお断り」
「姐さん落ち着いてて。・・もしや立ち飲み行きたいんですか」
「あの、あの、憧れの」
「憧れてるんですかい!」


「ほら、立ち飲み屋です。ツマミ、柿の種かニンニク漬けしかありませんて」
「じゃあ、ニンニクの種と柿の漬物で」
「ありませんて。姐さん今日ボケもキレがありませんね」
「そしたらツマミに貴様のチチクビでも出せー!」
「なに言い出すんです、人のチクビどうする気です」
「指先でこう、きゅっとツマみながら飲みますから!」
「セクハラやめて。姐さんほんまオドオドしてますね」
「だって周囲がぜんぶ関西弁で、その、あの、ステキなサムシングが」
「意味わかんないけど、なんや勝った気分ですわ」


「びびりながらも相当のみましたね」
「おっしゃ、バッチ来いー!」
「ヤケっぽいアクションやめてください、姐さん酔うたあるでしょ」
「酔ってないもん」
「そう言いながらふらふらどこ行きますねん、ちょっと!ほら!もう、危ないー!」
「・・・ニシ君、あたしこの街こわい」
「あんたの方が怖いですわ。車に突進するのやめてくださいね」


「車道が広い」
「そうですか、たしかに比べると東京の道は狭いですよね」
「大阪の街は・・・」
「なんですか」
「悲しい・・色やね」
「なにそれ」
「♪ホーミタイ、大阪ベイ・ブルース♪」
「そんな歌、知りません」
「野球王、ベーブ・ルースを讃える歌だ」
「はっきし嘘ですね」
「もうニシ君きらい」
「そんなすぐキレないで!」
「じゃあヒガシさんきらい」
「自己嫌悪!?」
「ミナミ君もキタさんも嫌いー!」
「全方位嫌ってどうするんです」
「東南東さんだけ好き!」
「わけわかりませんわ、酔い、さましたほうがいいですね」


「ほら姐さん、駅ビルの中のカフェですよ。キザで東京っぽいから落ち着くでしょう」
「生チャイ、ウマー!」
「やめて。チャイそんなにおいしいですか」
「それはもう、酢豚に例えると」
「なんで酢豚!」
「だいたいキュウリぐらいおいしいね」
「わかりませんわ、そしたらボクの飲んでるマンゴー・ラッシーはどんな位置づけですねん」
「そりゃもう、パイナップル」
「わかるようなわからないような」


「さて、どこ行きたいですか」
「岸和田」
「はいー?」
「日本一バイオレンスな土地で暴れてみたい」
「なに言い出すんですか」
「まずその辺で金属バットでも調達して」
「どうする気です」
「五寸釘がんがん打ち込んで最強の武器を製造」
「なんのために」
「岸和田、乗り込んでバット振り回して」
「あぶないですわ」
「こうらー東京から住吉会が挨拶に来たぞうー、言って」
「あんた構成員ですか」
「すぐ返り討ちにあってボコボコに」
「何しに行くんです」
「瀕死の状態で夜空ながめて『悲しい色やね』って呟いて」
「やめてください! 姐さんたぶん大阪への認識むっちゃ間違ってますわ!」


「はい、そんなわけで水族館に来ましたー」
「おさかな、おさかな」
「幼児退行してませんか」
「心理学的に言って防衛反応の一種だ」
「正気ですやん、ここ、アザラシとラッコがかわいいですよ」
「それよりスベスベマンジュウガニが見たい」
「・・いてますけど! ピンポイントでマニアックすぎます!」
「フクフクマンジュウガニでもいい」
「そんなんいません」
「ペケペケマンジュウガニは?」
「いませんて! カニやらの水槽はあっちですから!」


「わあー」
「あ、めっちゃ喜んでる、喜んでる、ヘンな名前のカニで」
「ほら、カニがハサミ振りながらこっち来た!」
「よかったですね」
「オレ! オレオレ! オレが噂のマンジュウガニ! って嘘ついてふつうのカニが」
「オレオレマンジュウガニですやん」


「さかな」
「そら魚ですわ、見たまんま言わんでください」
「さかなさかな」
「水族館ですから!」
「さかなさかなさかなー」
「ああ、歌ですか。さかなーを食べーるとー」
「おサケおサケおサケー」
「おサケがうまいよ、って、それ違う肴ですし!」
「おさかな天国、デュエットありがとう」
「いや水族館でそんなん歌いださないでください」
「でも、おいしそう。マグロとかアジとか」
「食用の目で見るとこ違いますから」
「江戸っ子としては、つい」
「魚河岸モードですか」
「鮮度にこだわって」
「みんな生きてますから!」
「そう、みんなこの地球で、一生懸命に生きてるんだ!」
「壮大にしないでください」
「かけがえのない命の宝物なんだ!」
「さっきおいしそう、とか言うてたやないですか」
「豊かな海と空と大地に、ありがとうー!」
「うわー、ありがとうー!」
「この世界を照らす太陽のちからに、ありがとうー!」
「はいー、ありがとうー!」
「魚のさばき方のうまいお寿司屋さんに、ありがとうー!」
「やっぱり食べるんですやん!」


「わあ、子どもアザラシ」
「かわいいでしょう」
「こっち来た、こっち来た!」
「おびえて逃げてどうするんです、ほら、ボクら見て興味しんしんですよー」
「・・つぶらな目でオレを見るな!」
「なんですその反応、なんかヤバいトラウマでもあるんですか」
「ごめんね、ゴマちゃん・・・」
「ありそうですやん!」
「家の前に捨てられていたキミを、育てきれずに川に流してしまって・・」
「いや、水場に還していいやないですか」
「海に帰ったゴマちゃんが、放射能を浴びて巨大化して戻ってくるなんて・・・」
「ゴジラですかい!」
「東京、壊滅」
「すごいゴマちゃんや」
「使徒、接近」
「ちがう話です」
「ヤマト、発進」
「なんで!」
「アムロ、行きまーす!」
「どこまで妄想ひろがるんです、姐さんただのオタクですね」
「巨大ゴマちゃんとエヴァンゲリオンとヤマトの諸君とガンダムが都内で大暴れ」
「すごい迷惑です」
「制裁されたゴマちゃん」
「ちょっとかわいそう」
「きゅうーん、とか鳴いて」
「痛々しいです」
「そしてタマちゃんは広い海に帰っていきました」
「アザラシの名前、かわってる!」


「ほら、ラッコがいてますよー」
「溺れてる」
「溺れてるんやありません! ああして水面でくるくるして、遊んでるんですよ」
「そのうち脚がつって、あっぷあっぷしながら助けを求め始めます」
「そんな海洋生物いません!」
「今いくぞー、叫んで飛び込むライフセーバーのお兄さん」
「いませんし」
「海難救助犬も大活躍」
「どうしてもラッコを溺れさせたいんですね」
「数分間の息詰まる苦闘の末、ようやくラッコはもと通りに波間にぷかぷかと」
「はいー?」
「のんびり浮いて、おなかの上でかちかち貝を割る」
「めちゃめちゃ無事ですやん」
「そして海の藻屑と消えるライフセーバーと海難救助犬」
「だめですやん!」


「ここ、館内にこんなジュースバーありますねん」
「なかなかいい所ねえ」
「なに飲みます」
「なにがおいしいの」
「ここはココナツジュースおいしいですよ、て、シャレやありませんけど」
「シャレ言った♪ ニシが・シャレ言った♪」
「手ぇ叩きながら歌わんといて!」
「飲み会で、イッキを盛り上げる歌ってあるよね」
「ああ、学生やらが手ぇ叩きながら歌いますよね」
「すいませーんビールふたつ!」
「うわ、なにいきなりオーダーしてるんです!しかも、ビールて」
「いやこのへんでイッキしとこうかな、と思って」
「アホな新歓コンパやないんやから」
「ビール来たので乾杯」
「昼間っからよく飲む日やなあ」
「はい、グラスは下に置かない!」
「ええ!」
「すき・すき・イッキ・スキー♪」
「はやし歌や、それがやりたかったんですか」
「すき・すき・イッキ・スキー♪」
「聞いたことないやつですわ」
「ニーシ君ー、ニーシ君ー、イッキ好きー♪」
「ボクが飲むの!?・・・飲みますけども!」
「はいはいはいはいはいはいはいはい♪」
「ぷはー。て、ノセないで!」
「と・こ・ろ・が・と・こ・ろ・が♪」
「自分のつぎ足してどうしろと!」
「すき・すき。イッキ・スキー♪」
「どこまで飲ませますのん!」


「ほんま姐さんコドモやないんやから」
「コドモとかけまして」
「えー、かけまして」
「タイで売られてる日本製コミックと解く」
「そのこころは?」
「東南アジアでは末端価格が高い」
「あぶないあぶない!やめてください!」


「なんや姐さん調子出てきましたね」
「居酒屋モードになると、どうも」
「コンパの女王か何かですか、もうちょっとマジメになれないんですか」
「あたしが一度としてマジメになったことがあったか!」
「ああー、ないわー」
「宇宙開闢以来」
「壮大にフマジメなんですね」
「人類の黎明期より」
「そんなスケールで!?」
「チンギスハン時代の前世、モンゴルのパオの中でニシ君と馬乳酒がんがん飲んでたこと思い出した」
「前世て。そんな記憶あるんですか」
「ニシ君、山羊で」
「ええー」
「あたし、ラクダだったかも」
「どっちも偶蹄目!?」


「他の前世も」
「まだあるんですか」
「中世ヨーロッパ」
「ステキっぽいですやん」
「トランシルバニア」
「ええと、ルーマニアの」
「吸血鬼ドラキュラ」
「姐さんたぶんそれですわ」
「ニシ君、血を吸われる乙女ね」
「いやです」
「ちゅうー、とストロで吸いまして」
「ストロて」
「生血ウマー!」
「もうツッコむ気力もありません」
「酢豚で言うと」
「だからなんで酢豚!」
「だいたいシイタケぐらいおいしいね」
「微妙にむかつきます」

「前世やら、ほんまにあるんでしょうか」
「あると思えばある、ないと思えばない」
「そんな禅問答いりません」
「現世は、たぶんあるね」
「あやふやなんですか!」
「そこではニシ君がキタ君だったり、ヒガシさんがミナミさんだったり」
「方角が混乱してます!」
「酢豚食ったり岸和田に殴り込んだり」
「あのね、ボク今の現世でいいですから」
「あたしは、変える」
「現世変えるのー!」
「おう、世界征服するわ」
「ほんまフマジメですわ、ひと言たりともマジメなこと言いませんよね」


「すでに漫才でもなくなってきてますよね」
「ちょっと過剰だったかな」
「漫才以上?」
「適度が、難しいようで」
「たしかにそうです。・・・姐さん、ひとつ訊いていいですか」
「五百個ぐらい訊いていいぞ」
「そんなにいりません、・・・来世、ってあるんですかね」
「あるとも」
「あるのー!?」
「たぶん来世、あたし酢豚の豚肉、ニシ君カタクリ粉」
「酢豚なのー!?」
「だったらいいな、と思いつつ」
「ほんま意味わかりませんわ、姐さんて、まるきり謎ですね」
「キミも謎だとも」

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送