漫才未満・ブルー



「どうもー。来ちゃいましたー」

「ああー、うちテレビは観ないんで受信料は・・」

「誰がNHKの集金人なんです」

「いや、よくキミみたいな子が徴収に来るのよ」

「ボクみたいなて」

「ムダにイケメンな若いのが集金に回されて、奥さん丸め込みモードで戸別訪問ですよ」

「いやそんな、イケメン言われるとボク照れますけども」

「ムダに」

「そこだけ強調せんといて」

「そういう徴収人の男の子が来ると面白くてびしびし苛めちゃうのよね」

「きっつい視聴者やな」

「家の前にしゃがみ込んで屈辱にうううー、とか泣いてるの見るともう、ああ・・」

「あんたドSですか! 早く家にあげてくださいよ、すでに近所の人に不審がられてますわ!」




「ようこそいらっしゃいました」

「姐さんの家はじめてですわ、大阪のアパート以外に、こっちにも根城あるんですねえ」

「やっぱり東京がベースで、毎月なんだかんだで戻るからねえ」

「家賃、大変ですやん」

「ああ、ここ家賃かからないの」

「なんで!」

「上がね。大家の親会社の裏事情がね。ふふ。むかし相談に乗ったことある絡みで・・」

「なんや怖いですわ。姐さん東京で裏社会に顔きかせてますやろ!」




「ほんま泊まっても構わないんですか」

「そりゃもう、ベランダまるまる空いてますから」

「外!」

「もてなしませんから」

「まあ、ワールドカップ観たくて勝手に来たわけですし」

「ニシ君ちはBSが観られないんだ」

「はい、貧乏やから衛星やらケーブルやら観られません」

「今日の試合は民放でも観られるんじゃなかった」

「じつは料金未払いで電気とめられてます」

「悲しすぎる・・・。せめて、うちでご飯ちゃんと食べていくんだよ」

「いや、お構いなく! フィレ肉と鉄板だけ出して貰うといたら自分でちゃっちゃとステーキ焼きますから!」

「誰がそんなもん出すか!」




「お土産買うてきました」

「ええ! そんな天変地異が起こるようなこと、しないで!」

「姐さんボクのことむっちゃ馬鹿にしてますやろ。ハイ、どうぞ」

「・・百均で買ったブルボン・チョコリエールを、ありがとう」

「お金、なくて。これでも必死ですわ」

「気の毒に。うちでお茶菓子でも食べていきなさい」

「ああ、百均で買うたブルボン・ホワイトロリータですね!」

「あたしもお金乏しくてね・・」

「ふたりしてブルボン王朝ですわ」

「まずしい王朝で泣けてきました」




「でもサッカーは威勢良く観ましょう! ほらほらキックオフだ!」

「はい、気持ち盛り上がりますね、って姐さん何したはるんですか」

「飲まないと始まらないでしょう! ほらビール!」

「ああハイいただきます、っておつまみまで!」

「ブルー・チーズよ」

「サムライ・ブルーにちなんでね」

「あとこれ、先月おいたままアオカビ生やしちゃったお惣菜」

「いりません!」

「じゃあこれはどうかな、食べると顔が青〜くなるあたしの手料理」

「そんなにひどいんですか!」

「青汁もあるよ」

「いりませんから! サッカー観ましょう!」




「いや、姐さん案外いけますよ、この手料理」

「包丁、すかーん間違って切っちゃって、あたしの手の一部入ってるからねえ」

「うえ、気色わるいこと言わんでください! せっかくお世辞いいながら食べてるのに」

「十一種類の野菜のサラダだ」

「ああ、サッカーチームにちなんでね」

「それぞれ今日のスタメンをイメージしてみた」

「さすがサッカー大好き姐さん」

「GK・ポテト。DF・水菜、セロリ、トマト、揚げ茄子。MF・揚げ牛蒡、オニオン、黄ピーマン。FW・ブロッコリー、アレ、青紫蘇。」

「・・・アレ。てなんです」

「巻」

「それ答えてないし!」

「いや、ほら・・・巻って似てるよね、アレに・・あのキツそうなところが・・・」

「だから、何にです!」




「いややなあ、ボク何を食わされてるんやろ」

「お母ちゃんが出したモン文句言わんと食べとき!」

「だれがお母ちゃんなんです。・・それ、何ですか」

「創作料理、名づけて“+チームガイスト”」

「それ公式サッカーボールの名前ですやん!」

「ドイツ大会を記念して、ザワークラウトとソーセージを煮立たせてみました」

「そんなもん煮立たすなて! なんやすごいケムリもくもく出てますやん!」

「ガイスト、って亡霊って意味もあるでしょう、それをイメージして」

「いちいち要らんイメージせんでください!」

「煮物にドライアイス放り込んでみた」

「うっわあ、またそんな地球温暖化の一因を・・。しかも食いモン、むっちゃ冷やっこいわ!」




「はいビール」

「おかわり、さくさく出てきますね」

「なにしろウチ、台所の蛇口ひねるとビールが」

「嘘やん」

「浴室の蛇口はひねると鮮血」

「オカルト!?」

「トイレの洗浄は、ざばざば“松茸のお吸い物”出てきますし」

「もったいないわ」

「洗面所にいたっては」

「はい、何でてきます」

「母乳だ」

「うっそ!・・あ、でも気になるわ、蛇口ひねってきていいですか」

「どこでスイッチ入るかわからないなキミも」




「さあニ点勝ち越しで後半ビハインド!」

「ってか負けてるね」

「いやいや冷静に言わんでください、これからですよ」

「なぁーにが起こるのかわからなァい!のがこの・ゥワ〜ルドカップのスゥーテァディーェァームゥー!」

「ジョン・カビラの口真似せんでください」

「おーっとーーー!ここでサイドからスローインだァーっ!」

「筋肉マンっぽい実況もいりません」

「いま満を持して歴史的なサイドラインに聳え立つスシボンバー高原の姿はまるで伝説の郷愁のママレモンのシルエットだあー!」

「古館さんの真似うるさい!」

「いやあ、サッカーって、本当に、いいものですね〜」

「水野晴郎しないで!」

「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」

「淀川さん関係ない!」

「・・おすぎです」

「ちょっと黙ってて姐さん!」




「あああー、タカのバカー!」

「いやそんな、転げまわらんといて、ほらまたコーナーキックですから。中村ですよ」

「しゅーんすけっ♪ぱぱぱ♪しゅーんすけっ♪ホイ!」

「我を見失った声援やめてください!飛び跳ねないで!」

「♪マリノッス〜♪マリノッス〜・マリノッス〜♪」

「いつの応援歌うたってるんですか!いま海外組ですよ!」

「うああああああ」

「わああああああ」

「俊輔の黄金の左脚がぁああ!」

「いや、どうもしてませんて。パスをカットされただけですやん」

「許さねえ! 今からドイツ行ってくるわ!」

「ちょ、走り出さんで、落ち着いて。・・姐さん中村俊輔のことになると常軌逸しますね」

「カーンとバラックとネドベドとロシツキーとウィファルシとサンタクルスのことでも常軌逸するよ!」

「多すぎます、外国の選手ですし、知らんわ」

「あと山田くん」

「そんな人、いましたっけ」

「あごひげを三本縦ラインでそり残してたんで、見た目“山”に見えて」

「そんな日本代表いましたか」

「イラク戦争のとき、そのヒゲをピースマークにして、それどう見ても“田”になってて」

「ヒゲが“山”や“田”に!? そんな選手の名まえ思いつきませんけども」

「ああ思い出した、ケヴィン・クーラニーだ」

「日本人じゃないですやん!」

「ドイツの選手だけど、心の呼び名が“山田”くんだ」

「ややこしいわ!」

「しかもドイツ代表に選抜されなかった」

「出てない人!?どうでもええわ!」




「なんや漫才越えてこういう素のハナシになると、姐さん本体がむきだしですね」

「あああー!中澤ー!!」

「うわドリブルで抜けてうわ、ディフェンダー3人がかりで、おわあ」

「ぎゃー!抜けろー!すげー!抜いた!すげ足回り!おあああ大黒にパス!」

「そのまま行ってー!ないないオフサイドない、いける!きめて!」

「神様お願い!」

「ジーザス!」

「や、やおよろずの!」

「仏様仏様」

「アッラー」

「ゼウスよ!」

「エホバ頼むわ!」

「アーフラマツダー」

「シヴァ神どうぞ!」

「オーディンよ力を!」

「アメン・ラー!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「う」

「い」

「あああ、やっ」

「やったあああああああー!!!」

「GOOOOOOOOL!!!」

「TORRRRRRRR!!!」

「うわっ、やったやった、点いれましたわ大黒!だいこくさま!!」

「じゃ歩b87やoiuewnb:おあえ」

「姐さん落ち着いて、いやよかった、ゴールですわ!なんや外からいっぱい歓声きこえますね」

「それが東京よ、うううう」

「泣かんといて!みんな試合みてるんですねえ」

「・・・ニシ君、異教の神の名前を呼んだ」

「姐さんかていろんな宗教のご本尊の名前言うてましたやん!」

「でもいいの、邪教徒でも。・・今は大黒が神」

「たぶん日本中、いまダイコクさんむっちゃ崇めてますわ」




「あと安心してみてられるね」

「はあ、なんやこう優雅に寝そべっておもむろに。ってまだあかんですよ、一点負けてますし」

「京都・大阪・神戸ー!」

「なんで関西の都市名さけびますねん」

「三都主ー!」

「それか、ああでもアレックスいいぞおー!がんがん上がってやー!」

「ミー・アレックス。ミー・アレックス」

「なんで姐さんが三都主になりますねん、でもそこや、うまく抜けたってー!」

「パス!」

「玉田や!すげえなんでそこに!」

「来た!」

「そやそや、来た!姐さんこれ歴史になるっぽい!」

「ああっ、戻す?嘘そんなヌルい」

「しませんて!ほらほら!ねえ!」

「抜けた、つないだ、前いった!」

「これはもう!」

「観てよほら、あの位置!」

「ヒデさん!ほんまですか!」

「いるの、みてるのあの人は必ず上がってくるの!」

「いった!的確に!」

「浮いた!でもヒデだよ!」

「そうや!お菓子と梨が大好きですわ!」

「そうよ!帰国のたびにファッションがどうかしてるし!」

「野菜いっさい食わんのですわ!」

「ネット狂だよヒデ!ヒデさん!」

「オレ様ですわ!」

「ペレにもきっとタメ口よ!」

「うあ、ありえねえ!」

「ま、ああ・・・」

「!」

「嘘や!あんなん人間にはできへんわ!」

「・・・・」

「ああああー!!!」

「オーバーヘッド!」

「決まった!」

「入った!!」

「うあああー!!!!」

「うそおおおおー!!!」

「ぎゃああああああー!!!!」

「わあああー、ヒデ、ヒデ、野菜食えーーー!!!」

「ものっそ失礼な応援くりひろげた甲斐が、ありましたねえ!」




「ばんばん飛び跳ねてしまいましたが」

「両どなりも上も向かいの家も大歓声だもの、かまわないわ」

「ワールドカップ観るのに適しすぎた環境ですね」

「よっしゃ、あと三分ある、どうにでもなる」

「姐さん暴れすぎですわ」

「ああごめん、おうりゃあ、行くぜあと一点!」

「ほんまそれ入ったら次に行けますわ」

「どっしゃらー!」

「ナニその掛け声」

「キミも適当に叫べ心のままに」

「ああ、ハイ。そしたらパッキャバラー!」

「パッキャバラー!」

「いやそんな暴れないでて、痛いですわ姐さん」

「ぼんごりうぉー!」

「意味わかりませんから!」




「お願いですあと一点、入れたらもうお手伝いもします宿題もします・・」

「いや気持ちはわかりますけども!姐さんコドモに戻ってますわ」

「パッキャバラー!」

「落ち着いて、てこんなん後ろから首がっつり締めたらんとこの人おさまらんのやろな」

「わあわあ!」

「ハイいい子ですから静かにね」

「どでばああー!」

「地球語も話せんようになってきてるわ」

「うあうあうあ、うああああうああ?」

「知らんて」

「まぎゃああああ!」

「おうあ、ほんまにまぎゃああですわ!」

「もげ、べしょがるびしび、でどば、ずごばぼめー」

「ああ、ほんまや。ほんまですねえ、て、そんな泣かんといて!めんどくさい人やなあ・・」




「燃え尽きた」

「そらそうや。ボクこんなうるさい人とサッカー観たのはじめてですわ」

「すごかったね」

「ハイ。・・感動の嵐ですわ」

「やっぱ、サッカーは騒いでなんぼよね?」

「いや姐さんめんどくさすぎます」

「じゃあ、ハイこれ」

「って日本代表のユニですやん、これを着ろと!?」

「着て、街に大さわぎに行くわよー!」

「うわあ、大さわぎ大好きな人やった!」

「イエー、見知らぬサポとハイタッチしに行くわよ!パッキャバラー!」

「関東モンの突発的なノリ、関西越えてるわ、ついてけへん!でも、も・・、ええわ!パッキャバラー!!」


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送