漫才未満


「おはようございますう」
「うん、早くないな。午後二時におはようってキミ芸能人気取りか」
「だって待ち合わせの時間決めたのそっちですやん」
「キミのためを思って! キミのためをそれだけをお母ちゃん考えて!」
「あんた誰ですのん」


「で、どこ行きましょか」
「とりあえずビール」
「二時から酒ですかい!」
「捕まるだろ!」
「捕まりません。でも本気でビール行くんですか」
「そこは、どこ」
「あんたが言うたんや」
「ああ、じゃあ恵比寿でも」
「ビールつながりで」


「ここはどこです」
「だから恵比寿です。十分前に言ったこと忘れないでください」
「さいきん物忘れひどくて」
「そのようです」
「何かしようとして立ち上がるでしょ」
「はあ」
「その瞬間すでに忘れてるから」
「それは早すぎる」
「思い出したっ! て振り向いて」
「よかった思い出した」
「いや待てよ、と振り返って」
「違ったんだ」
「ああ、やっぱりそうでした、と反対側むいて」
「くるくる回ってますね」
「あーやっぱり違った、と打ちのめされて」
「誰がダメ出ししてますのん」
「気がつくとまた座り込んでる。そのまま半日」
「動け!」


「で、恵比寿ってなにがあるの」
「知りません。ボク関西の子やし」
「じゃあとりあえず、渋谷でも」
「駅ちがう!」


「はい、ここが渋谷です」
「急に態度大っきいなりますな」
「庭みたいなもんだから」
「さすが東京の姐さん」
「まず109があって、それから道があって」
「ああ、なんちゃら言うおしゃれな通りでしょう」
「そう、なんちゃら通りがあって、それ歩いてたったったっ、と行くとまた通りがあって」
「ええと、また、なんちゃら言うおしゃれな通り」
「そう。それをつったかたー、と進むと」
「つったかたー、て」
「恵比寿に戻ってる」
「戻るんか!」


「もう面倒くさいから上野とか行きたい」
「いきなり丸投げですか。なんで上野」
「そりゃ西郷さんもウヨウヨいるし」
「いません。銅像あるだけ」
「キミ東京に詳しいなー」
「詳しくないです。上野言うたらアメ横とかあるでしょう」
「ああアメ横。アメリカン横分け」
「横分け関係ないです。横町でしょう」
「アメフト横町」
「みんなごっつい肩パッド入れて、があー、道行く人なぎ倒しますから」
「そんな危険な街に行くの」
「ちゃんとツッコめ!」


「ボク渋谷とか詳しくないから行きたいですよ、案内してください」
「そうそう人に頼ってばっかりの人生はよくないぞ」
「あのね、普通にガイドお願いしてますやん」
「仕方ないな、まず109があって」
「それさっき聞いた」
「その向こうに108があって」
「うわーまじですか」
「煩悩の数だけ続いてる」
「除夜の鐘か!」


「いや姐さん地元でしょう、渋谷とかナビってくださいよ」
「ファンタジックなギャルのように」
「ファンタジックかどうか知りませんが、いけてるスポットとかを」
「ああ、ワシが幼少の頃よく行ってたサ店がある」
「ワシ、幼少、サ店ってツッコミどころ満載ですが、それがなんですのん」
「えーと、渋谷のわりには空いてて静か」
「それはボクみたいな上京っ子にはどうでもいいです、でもその店、そんなにいいんですか」
「ひじょうによろしい」
「どんなとこがですか」
「カレー、それからシチュー、あとカレーシチュー、とメニューも豊富」
「ぜんぜん豊富じゃありません」
「そのすべてに、でっかい肉団子が乗っている」
「ちょっとそそりますね」
「ハンバーグ頼んでも、上に肉団子がこう、ごろんと」
「おなかいっぱいなりますね」
「パフェの上にも肉団子どーん!」
「イヤすぎます」
「店の上にも巨大な肉団子だーん!」
「やめて」
「そこに行こう」
「行くんかい!」


「えー、店そのものがありません」
「前に来たのいつなんですか」
「つい10年前かな」
「情報、古!」
「古い古いと馬鹿にしてはいけない! 昔の人の知恵はそりゃあ有難いもんだぞ!」
「今、そういう話してませんから」
「足が疲れたー」
「いきなりナチュラルにぐずりますね、そこのスタバ入りましょう」
「スタートレック・バー?」
「なにそれ」


「スターライト・番長?」
「まだ言ってる、はやく注文してください」
「あたしラテのショートをホットで普通のミルクっ」
「いきなり早、290円ボクに投げつけ、ってことは注文して来いと」
「蜂蜜一滴たらしてバニラふた振りしてっ」
「そんなん自分でやってくださいよ」
「その上からふりかけパパパパー、のりたま、鮭たらこ、梅かつお」
「落ち着いて」
「そこの木のスティックでぐーるぐるかき回して」
「それもボクがやるんですか」
「腰に手をあててごっごっご、と一気飲み」
「熱いですよ」
「ヤケドに気をつけてくれ」
「ボクが飲むの!?」


「さてコーヒーも飲んだことですし」
「甘いもんも食べましたし」
「帰るか」
「終了はやすぎます、なんか遊びにいくとこないんですか」
「あっちに大使館がある、旗ざおによじ登って叫んでると人がいっぱい集まってきて面白いよ」
「やりません、ふつうに遊園地とか行きましょうよ」
「めんどくさい、そこの公園で鬼ごっこしたらお金もかからないし」
「しょぼいオトナやな、ふたりで鬼ごっこしてもつまらないでしょう」
「いや、鬼が手に包丁持ってるとすごく盛り上がるから」
「犯罪!」


「結局フリー・フォールに3回も乗ってしまいました」
「胃が裏返ったわ」
「ボクあれ好きなんです。下に靴並べといて裸足で手ぇ合わせて上昇してくのが」
「そんなことしてるのキミだけです」
「もういっぺん乗りませんか」
「一人で行ってきなさい。降りてこないでいいからね」


「フリー・フォールの係のお姉さんの、ボクを見る目が冷たかったです」
「ほんとに4回目乗ったんだ」
「4回目はちょい冷や、ぐらいで、その次はひ〜んやり」
「5回目!」
「いちばん最後は液体窒素みたいになってましたね」
「いったい何回乗ったんだ」


「さて日も暮れましたし」

「よう遊びましたし」
「フリー・フォールしか乗ってないけどね」
「何やおいしいもんでも食べ行きましょう」
「パーク・ハイアットでディナー」
「ボクあと3千円しかありません」
「じゃあ、うまい棒ー」
「いきなり駄菓子ですか」
「中間とって、そこの居酒屋ー」
「妥当かと思われます」


「気前よくビールいきますねえ」
「キミもよくついて来るねえ」
「今気がつきましたが、食べるもん注文してませんでした。なんにします」
「もずく」
「それから」
「以上」
「終わり!?」
「食べる方はまかせた。あたしは飲む方に専念する」
「体こわしますよ」
「壊れたらまた組み立て直せばよろしい」
「プラモか何かですか、姐さんの体は」
「パーツ5つ位で出来てる」
「お菓子のおまけや」


「さて夜も更けましたし」
「居酒屋の店員、奥で片づけ始めてますわ」
「エロスなトークでも炸裂させときますか」
「うわー、待ってましたー」
「朝起きて、ボーとしながらベッドに腰かけてね」
「なんやワクワクする出だしですね」
「チチヤス低糖ヨーグルト」
「はいー!?」
「あたしの朝ごはん」
「銘柄はいいから」
「食べようと思って蓋ぴー、て開けたらもう、ばっしゃあ、と」
「どうなりました」
「力加減まちがって、中身のヨーグルト顔から体からベッドからもうそこらじゅうに飛び散ったわ」
「うわあ」
「エロいでしょ?」
「ビジュアルはやらしくないこともないですが、話にエロスのかけらもありません」
「まだこの袖とか、襟のとことか、ヨーグルト匂ってるわ」
「今日!? て言うか、出かける前に着替えろて!」


「さあ終電ぎりぎりだ」
「よう飲みましたわあ」
「10時間もぺらぺらぺらぺらこの調子で」
「よう喋くりましたわあ」
「飽きずにほんとに。何でキミと会うとこうなるかねえ」
「付き合うとるわけでもないのに」
「どんな仲なんだか」
「いやあ、友達でしょう」
「めっさナチュラルにこんな腕組んでますけど」
「あんたが無理やり組んだんです」
「ポケットの中でめっさ手握ってますけど」
「それもあんたが無理やり握ったんです」
「抵抗しないくせに」
「友達以上てやつですかねえ」
「ああ、そんな言い方あるよねえ」
「友達以上、変人未満」
「変人!?」
「恋人やのうて変人ですわ」
「うまいこと言うなあ」
「ユニット名」
「コンビ結成!?」
「あ、駅や」
「コンビ解散」
「早!」
「芸風の違いで」
「いつから!?」
「これからお互いピンでいくわけですが」
「わけですが」
「何ごとも芸の肥やしにして」
「はいー、肥やしにして」
「頑張っていきましょう」
「いきましょうねえ」
「また会える?」
「はい」

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