漫才未満・ホワイト



(2005年・冬)


「どうもー。お寒うございますー」

「ほんとに寒い。さすがツンドラ地帯」

「いや、大阪はステップ気候ですから。学校で習わんかったんですか」

「血も凍る寒さだよ」

「どこがです。ふつうになんばの駅前ですやん」

「いや、早めに時間あいたんで、いつもどおりグランド花月行きまして」

「それ、こっちでの姐さんの日常なんですか」

「“入場券”落ちてないかなー、思って通りをうろうろしててね」

「自分で買いましょうよ!まずしい日常やな」

「4000円もするものが気軽に買えるか!」

「たしかに、ボクも買えませんけど」

「そしたら吉本ショップの前で」

「ああ、グッズやら売ってますね」

「これからお笑い目指すっぽい中学生がふたり、辻漫才はじめまして」

「初々しいチャレンジャーですね」

「いやもう、それがサムいのなんの」

「ツンドラ並みにサムかったん!?」



「『どうもー。僕らお笑いめざしてるモンなんですけどねー』」

「うわ、姐さんそんなきっちり記憶して!モノマネで!」

「『中学校では“漫才部”入ってますわー』

「その、相方のマネするとき瞬時に横移動しないで!」

「『キミが部長で』 『ボクが部員』」

「反復横飛びみたいやな」

「『『ふたりっきりの漫才部ですわー!』』」

「いや姐さん、今また腹話術、いやホーミー?ふたりぶん声出たわ」

「『今日は街ゆく口の肥えた皆さんにですね』『いやキミ口て。耳でしょ』」

「たしかにボケもツッコミも中途半端やな」

「『いやいやあの人は腹がよう肥えてます』『そんなお客さんに失礼な!』」

「この段階で聴衆イジリはだめでしょう」

「『『僕らの漫才を聴いてもらおう思いましてー!』』

「また二人ぶん声でたわ、どないなっとん姐さんの声帯」

「そこであたしが大声で『聴かん!』」

「え」

「半笑いのギャラリーめっさ引いて、中学生たち縮こまったわ」

「ひど!」

「サムくなったのなんの」

「それ姐さんが場を冷やしたんですやん!」



「中学生、かわいそう」

「そんなこんなで鍛えられていくものよ。さあ道頓堀いきましょう」

「道頓堀でナニするんです」

「釣り」

「なんも釣れませんわ!ゴミやら針にひっかけるつもりですか!」

「遊び人の若い男の子が橋の上で釣れるときいた」

「ナンパしに行くんですか!」

「なんばでナンパ。キャッチ!」

「キャッチバーの店員さんか!」

「アンド・リリース!」

「放すの!?」

「川に」

「溺れるわ!」



「こんど東京のクリスマスパーティーに持ち帰るのに、いい大阪みやげを探してるんだけど」

「ああ、それならベタなお土産屋がぎょうさんありますから」

「道頓堀の・・・おいしい水?」

「きちゃないから飲めませんし、誰も喜びません」

「道頓堀の・・・すがれた空気?」

「すがれてないわ、にぎやかや。だいたい空気どうやって持ち帰るんです」

「このあたしの肺臓に、いっぱいにためて」

「姐さん東京に戻るまで息しないつもりですか!」

「じゃあ道頓堀の・・・浮気なホストと夜汽車で逃げるあらくれ花嫁の恋の思い出?」

「そんなややこしい恋でもしたんですか!まるで土産にならへんわ!」



「こっちでの新生活はどうなんです」

「ものすごく楽しいね」

「よかったですやん、姐さん適応が早いから」

「マンションの右隣の部屋に、おもしろいお母さんが住んでて」

「ああ、お世話になったはるんですか」

「毎日ふとん叩きながら“引っ越し!引っ越し!さっさと・引っ越し!”って歌ってて」

「それイヤガラセされてますやん」

「面白いんであたしも鍋釜ちゃかぽこ叩いてリズムにのって」

「うわあ」

「♪ウ〜オゥイェィウォウゥヤァ〜♪って合いの手いれて」

「ファルセットで歌いださんといて!」

「♪ウゥィェィ、ひぃっこぉすのはあなたのほう〜ベイビィ、アイルキルユー、ヘィファッキンマザー♪」

「脅してますやん!」

「そしたらその人先月引っ越しちゃった」

「勝ってますし」

「あと、左と上と下の住人が先週引っ越していった」

「勝ち越しすぎや!」



「姐さん迷惑な住民ですねえ、ボクなんか東京の部屋でむっちゃ気ぃ遣って暮らしてますよ」

「若い男の子にしてはできてるわね」

「はあ、ほんま!夜の十二時以降はお経となえんように気をつけてますし」

「唱えるのか」

「朝の五時より先に金切り声で絶叫せんよう頑張ってますもん」

「・・ねえ、東京の暮らしでなにがあったの」



「詳しくは言えませんが、いろいろありましたわ」

「その“いろいろ”の部分をくわしく聞きたい」

「そらもう、レッド・ゴールド・アンド・グリーンですわ」

「色合い華やかだなあ」

「もうクリスマス気分で!」

「なんだか涙目でがむしゃらに飛びはねてるから訊かないわ」

「カーマカマカマカマ♪カマカメレーオーン、ですわ」

「ああ八十年代のカルチャークラブの歌を。うん、だいたいわかった」

「ほんまですか、えっえっ・・・」

「泣くな!うっかり二丁目に迷い込んでゲイのオネエさんに迫られたくらい何だ!」

「そんな的確に当てんといて!えっえっ・・・」

「痔にはボラギノール」

「そこまでされてません、貞操はまもったわ!えっえっ・・・」

「なにをされたんだか」



「ほんま朝の光の中でおヒゲの濃ゆい美女みた時にはボクね」

「ああどうでもいいから聞かない、それも芸の肥やしってことで納得して」

「できませんわ!ほんま東京こわいわ!」

「なに言ってるの、あたしだって先週そこでヤン系の男の子ナンパして」

「うわ、あいかわらずお盛んですね姐さん」

「連れ帰ってみたらオナベさんでびっくりした」

「姐さんある種ボクと同じような間違いせんでくださいよ!」



「姐さんって、どういう男がタイプなんですか。いやナンパのターゲットは」

「ああ、1・可愛い、2・若い、3・セクシー。だけですけども?」

「あんた、おっさんですか」

「キミだって本音いったらそうでしょう」

「・・・そらそうですけども!姐さんあからさますぎますわ!」

「こないだナンパした子にそれ聞かれて」

「ハイ」

「同じこと言ったら本気で泣かれた」

「ほんまひどいわ姐さん、遊び人なミドルエイジやな!」

「ちょいワルオヤジよ」

「激悪おばさまや!」



「さあ道頓堀だ」

「この板張りのデッキ通路がちょっとオシャレでしょう」

「ああほんと。そして有名なグリコの看板が、ステキに。下世話に」

「見慣れたら気にせえへんわ、このゆったりした川の流れがいいですやんかあ」

「そりゃ飛び込みたくもなるね」

「阪神ファンでないかぎり飛び込みませんわ」

「そりゃ突き落としたくもなるね」

「誰をです!殺気を漂わさんといて!」

「あちこちから、おいしい匂いが」

「ああ、はよ飲み行きましょう!」

「いやいやいや、まずお土産を」

「ああもうじゃまくさい!あの“グリコの看板”はずして土産にしたらええやないですか!」

「なにキレてんの」

「おなかすいてるんですわー!」

「めんどくさい、あの“グリコの看板”はずして食べてたらいいじゃないの」

「川に突き落としますよ!」



「ああ、寒いと思ったら雪だ」

「ホワイトクリスマスですねえ」

「いや、まだ“冬至”ですけども。カボチャ食べとかないと」

「もうちょっと豪勢なもんにしませんか」

「“しらこ”とか」

「なんで!」

「ホワイトクリスマスだからねえ」

「ベクトル違うわ」

「じゃあ、そのへんで酒粕汁の鍋でも食べましょう。暖まるし、白いし」

「“白さ”にこだわらんでもいいです!」



「それで、お土産ナニ買うたんです」

「“大阪名物おっぱいプリン”と“”大阪の匂いの缶詰・北新地のママのうなじの香り”だ」

「いやがらせや」

「さて、寒かろうとなんだろうとビールだけは飲んでおきましょう。乾杯」

「なんですかこれ?ふつうのビールと違う」

「白ビール」

「白いん!?」

「ベルギーの小麦ビールよ。おいしいでしょう」

「酒粕鍋にまったく合いませんけど」

「お母ちゃんの出したモン、文句言わんと黙って食べとき!」

「だれがお母ちゃんですねん。・・あ、そうや」

「お父ちゃんならおとつい淡路に行ったきり戻らんわ」

「へんな家族ストーリー作らんといて!」

「今ごろお父ちゃん淡路でタマネギの養分になってるわ」

「その話はいいから!・・姐さん、来月あたりですねえ」

「わたしが・・・埋めたんや・・・穴ほって・・・お父ちゃんほかしてもうたんや・・・」

「怖い話くり広げんでください!姐さん、来年やらまた東京に戻りますか?」

「だいたい毎月くらい帰ってるけど」

「ああ、そしたら向こうで見てほしいもんがあるんですわ」

「ゲイのオネエさんか」

「違います。まあお楽しみということで」

「え。このハナシ次回につづくの!?」

「そのようです」

(続)

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