漫才未満・EASTWEST


「どうもー、遅くなりましたー」

「おそいおそいおそい遅すぎる」

「ええー。五分の遅刻ですやん」

「ひと月まえからここに立ちつくしてたわ」

「いやそれ、いくらなんでも嘘」

「気持ちだけ先に来てずっと待ってたわ」

「それ幽体ですよ」

「除霊されないようにがんばりまして」

「あんた地縛霊ですか」

「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」

「宮沢賢治ですやん」

「カンパネルラにもマケズ」

「戦ったんですか」

「ジョバンニにはマケタ」

「負けてますやん」

「『カンパネルラのかたき!』つって銀河鉄道で突っ込んでくるんですもん」

「スケールでかあい」

「体はって止めたんですけどね」

「鉄道を」

「幽体なもんですり抜けていきまして」

「銀河鉄道は実体!?」

「脱線してマンションに突っ込んでもう、大惨事」

「不謹慎な発言やめてください!」



「クレーム来ますよ」

「シュー・ア・ラ・クレームってあるじゃない」

「話そらさんといて!」

「シュークリーム買おうと思ってケーキ屋行ったのに、それしかなくて」

「同じもんでしょう」

「いや、なまえが違う」

「そらそうですが」

「あたしとしてはやっぱりシュークリーム音頭が歌いたいわけよ」

「なに言い出すんです」

「♪シュークリーム、シュークリーム、どどんがどん、ソレ、シュークリーム音頭で夜が明ける〜♪」

「また意味のわからん歌を」

「これがシュー・ア・ラ・クレームだと音頭にならないわけよ」

「どうでもいいです」

「シャンソンになる」

「なるんや」

「♪シュー・ア・ルララァァァ・クレーム〜♪」

「ハスキーな声で歌いださんといて!」

「♪枯葉よ〜♪」

「ツッコミませんよ」

「ほんとにクレーム来たらどうしよう」

「ハナシ戻さんといて!」



「また意味不明な芸風でトバしますね、前回はこっち来てオドオドしてたのに」

「もう慣れた」

「適応、早!」

「さっきも地元の人に道きかれて」

「え」

「『すんまへん天満橋病院てどこでっしゃろ』っておばあさんが」

「どうしました」

「『ああ、それやったらこっちやわあ、ここ裏道たんたん抜けたったら早いよってなあ』って腕ひっぱって」

「うわ、インチキくさい関西弁で!」

「『おおきにおおきに、あんさんこのへんのひとでっか』言われたから」

「姐さん東京人ですやん」

「『中野区から来ました!』って最敬礼してみた」

「おばあさんヒキましたでしょ」

「いや、『ああ、東大阪の』って納得してた」

「なんで!」

「東大阪市中野区出身だ」

「ないし!」



「ほんまどこでもくつろぎますね、いい性格やわあ」

「さ、そしたら天王寺まで行ってみましょ、環状線外回りで急行乗ったらすぐそこだから」

「なんで姐さんが大阪でボクを案内するんです!」



「もう体力の限界」

「いきなりですか、そしたらお茶しましょう」

「そこのカフェ。疲れたから座りたい」

「まあ慣れない土地ですし」

「環状線まちがえて反対側ぐるぐる回ったし」

「信用するんやなかった」

「またハイテンションで喋くりながら」

「言うてはること、ほぼでたらめでしたけど」

「でたらめ言うため生まれてきたの」

「うわあ」

「デタラメーヌ」

「なにそれ、オシャレっぽくしないでください!」

「じゃあ、デタラメーゼ」

「女性雑誌で特集してそうやな」

「憧れのデタラメーゼ・口からでまかせ華麗な昼さがり」

「なんでもいいから」

「セレブ気分でいんちきゴージャス・メイク落とさず一週間!」

「店に入りましょう」

「でたらめOL着まわしアイデア・万引きで今秋モード」

「人が見ててはずかしいから!」



「カフェ、よね」

「カフェのはずです」

「このチェーン店、東京にもいっぱいあるけど」

「チョコブレッドとブラックカフェの店ですわ」

「大阪名物ミックスジュース、って」

「地域色だしてますわ」

「メニューにたこ焼きがないのがむしろ不思議」

「裏メニューであるかもしれません」

「ああ、でもおいしい。ミックスジュース」

「よかったですね」

「バナナと桃缶いれたエッグノックの味がする」

「こっちの喫茶店ではこういうのん出すんですわ」

「ああ、個人でやってるきっちゃてんの大将がね」

「きっちゃてん言うなー」

「常連のリクエストに応えて、ミキサーでがー、と」

「そうそう」

「カウンターの中で微笑むその大将は」

「ふつうにマスター言いましょうよ」

「バナナと桃缶いれた横山ノックの顔してる」

「どんな!」

「♪枯葉よ〜♪」

「歌うな!」



「さあミックスジュースも飲みましたし」

「横山ノックにも親しみましたし」

「親しんでへん、天王寺まできてどこ行くんですか」

「そりゃ、ニシ君のだいすきな」

「動物園?」

「ちがいます」

「なんやろ、遊園地はないし」

「神社だ」

「ええー」

「いわくつきの神社で式王子をゲットする」

「なんです、式王子て」

「呪術に使う霊力のつよい一種の式神だ」

「怖いわ!」

「あつかいかた間違えると、呪い返しにあって命おとす危険性もある」

「何しに行くんです!」

「・・・ニシ君」

「な、なんで薄笑いしてますのん」

「今日まで、どうもありがとう」

「な、何!?」

「先に謝っとくね。ゴメン!」

「ちょっと待ってや!」

「骨は拾うから」

「ボク、いけにえか何かですか!?」



「はい、そんなわけで阿倍王子神社に来ましたー」

「なんや、晴明さんですやん」

「ハルアキ君ね」

「気さくなあだ名つけんでください、アベノセイメイさんゆかりの神社でしょう」

「そうそう」

「式王子やら怖いこと言うから何や思った、こじんまりしてていい神社ですやん」

「はーい参拝ー」

「どうやるんですか」

「まずお水で両手と口を清めて」

「こうですか」

「ハンドソープでごーしごし洗って、リステリンでがらがらがら」

「嘘やん」

「そして段々をあがりまして」

「はい、気持ちひきしまりますね」

「奥の奥、にあるご神体に向かって」

「ガラス戸越しにうすぅーく見えますわ」

「一礼、二拍、一礼」

「姐さん礼とかしわ手が堂に入ってますね」

「プロだから」

「なんの!」

「ニシ君の場合は、八礼、五十一拍、百九十四礼で」

「そんなん忙しすぎるわ!」



「なんやお参りしたら気持ちすがすがしくなりました」

「じゃあ、式王子をいただきに」

「いよいよですか」

「すいませーん!」

「うわ、大声で」

「くださいなー!」

「そこ、お守りやらの販売所ですやん!」

「五芒星ステッカー五枚ときつねのストラップ一個くださいー!」

「お土産ですやん」

「式王子、ゲット!」

「お守り買うただけや」

「♪土産よ〜♪」

「歌うな!」



「そしたら路面電車で駅まで帰りましょう」

「行きはバスだったけど、こっちのほうが風情あるわねえ」

「歴史の古ぅい街ですねん」

「縄文時代から市電通ってるからね」

「んなアホな」

「定住・農耕・インフラ完備」

「どんな時代ですねん」

「貝塚まで徒歩5分! 南向き新築・竪穴式住居」

「新築て」

「ペット可だ」

「ペットて」

「シカとかイノシシとか」

「それ食料!」

「リビングのインテリアは」

「まだ言う」

「土偶がずらりと」

「いやや」

「遮光式だ」

「怖いですわ」

「♪土偶よ〜♪」

「歌うな!」



「用事すんだなら動物園いきましょうよ」

「ええー」

「なんでそんな、苦々しい」

「天王寺動物園でしょ」

「ハイ」

「あの、作家の筒井康隆のお父さんが園長してたとこでしょ」

「やたら詳しいですね」

「戦時中に死んだ象の肉を食べちゃってエレテキ事件て言われたとこでしょ」

「なんですそれは」

「ゲテモノ友の会が来て梅毛虫や桜毛虫を焼いて食べたとこでしょ」

「へんなことばかり知ったはりますね、さすがヘンな人や」

「そんなヘンなとこ、行かない」

「あんたに言われたないねん!」

「て言うか、もう夕方。閉園」

「あ」



「そんなわけで結局」

「飲みに来てますわ」

「だらだら話してたら日が暮れました」

「動物園いきたかったわあ」

「そんなにも」

「ゾウやらキリンやら見たかってん」

「あと、キーウィとカラカルとワライカワセミね」

「いやそんな具体的に当てないで、なんでわかるんです」

「顔に書いてある」

「キーウィて!?」

「いや、額に『肉』」

「キン肉マンですやん」

「ああ!」

「なんです」

「よく見たら『内』だった」

「キン内マン!?」

「あたしも、見たい動物が」

「じゃあ今度いきましょう、なにが見たいんです」

「ボアコンストリクター」

「うわあ」

「ニューギニアヘビクビガメ」

「いややあ」

「エジプトルーセットオオコウモリ」

「行くときは別行動にしましょう」

「ではビール来たので」

「乾杯。おつかれさん」

「気合い入れて飲みましょう」

「入れんでいいて!」

「いやもう、ターボかけて飲む」

「なんでや。食べるもんどうします」

「♪もずくよ〜♪」

「いちいち歌うな!」


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