漫才未満・EAST


「おーい。いっちゃん」

「あ。ヒガシ来たか」

「いやあ、駅で迷っちゃって」

「一個しかないホームでどうやって迷うんだ」

「特技・自分ラビリンス」

「一生アタマの中で迷ってなさい」

「久しぶりぃ」

「そうだなあ」

「ヘロー」

「なにがヘローだ」

「ハウドゥユドゥー」

「なにがハウドゥユドゥーだ」

「いや、グローバルに」

「飛田給のさびれた駅前のどこがグローバルだ」

「トビタキューっていい名前だよね」

「まあ、語感はおもしろい」

「あたし他には、馬喰町と原木中山がすきだ」

「バクロチョーとバラキナカヤマね」

「バラキ!」

「叫ぶな」

「ザラキ!」

「殺すな」



「そんなわけで味の素スタジアムに向かってるわけなんですけども」

「徒歩でね」

「駅からぞろぞろとサポーターの群れが道を埋めております」

「スタジアム以外になにもない町だなこれは」

「さて今日の試合、どのようにご覧になりますか解説のイチコさん」

「薄目あけてトランス状態で観たいですね」

「いや、起きとこうよ」

「眠いんだよあたしゃ」

「寝てないんだ」

「徹夜だよ」

「飲んでたの」

「仕事だよ」

「何時まで」

「8時だよ」

「全員集合!」

「・・・・」

「いたい痛いいたい、無言で首しめないで!」



「まったく、この忙しいのにあんたが相談あるって言うから」

「はいー申し訳ありませんー」

「じゃあ夕方に待ち合わせ、ってなんで飛田給かと思ったら」

「はいー重々反省しておりますですー」

「サッカー観ながら人生相談かい!」

「ビールも飲みますよ」

「能天気にもほどがあるわ」

「からあげも食べますよ」

「ウキウキするんじゃない!」

「サッカーコートには人生が埋まってるんだ!」

「今すぐこの地面に人生埋めてあげましょうか?」



「ああ、なるほど。こりゃ気分いいわ」

「でしょ?」

「ちょうどこの、夏の夕暮れ時にキックオフ」

「すがすがしいでしょ?」

「前列のFC東京サポーターが暑苦しくて汗臭いけどね」

「まあそういうフレーバーの中で」

「フレーバー言うな」

「人生相談ですよ」

「どんなシチュエーションだ」

「あー!!」

「な、なに!?」

「あーオフサイドだったー」

「サッカー観るか話すかどっちかにしろ!」



「いやね、いっちゃん。あたし悩んでんのよ」

「聞こうじゃないか」

「どうしてさー」

「うん」

「何ゆえに」

「うん」

「なぜ、なぜ、ホワイ」

「とっとと言え!」

「パンツですよ」

「はあ!?」

「かわいい子のパンツってかわいいよね」

「なに!?」

「いや、すきな子のパンツよ」

「あんた爽やかなスタジアムでなに言い出すの」

「いっちゃんはそう思わないか」

「ごめん意味わかんない」

「だからね、男のパンツなんてふつうかわいいか?」

「かわいくないよ」

「ところがね、ほら、すきな子をこう、脱がしますでしょ」

「・・・」

「あたま抱えてうつむかないで!」

「・・あんたねえ」

「えーと、まあベルトをしてたらこう、で、それからこう」

「その具体的なパントマイムをやめろ!」

「いや、じゃあ話はしょりましょう、そしたらパンツが出てきますわね」

「パンツパンツ連呼するな」

「でね、その瞬間に『まあかわいい』って」

「なるんだ」

「なりません?」

「ならないよ」

「変だなー」

「あんたが変!」



「ちょっとまて、それが人生相談か」

「ええそうよ?」

「・・心配してここまで来たあたしがバカだった」

「いっちゃんはバカなんかじゃないよ! もっと自分に自信を持って!」

「もしもし? ぶっころしますわよ?」



「うーん、まじめに悩んでんだけどなあ」

「あほらしいけど解説してやる。それはな、フェティシズムだ」

「ほう」

「あんたがそのパンツにご対面する時、うう、あんまりビジュアル想像したくないが」

「では美しいサッカーコートの景色でお楽しみください」

「うるさい、つまり、その時は非常にセクシュアルに亢進した状態にあり、脳内では『快』を認知する神経へのアクセスビリティが高まっている」

「マジメな言葉で言えば言うほどやらしいですね」

「黙っとけ、で、あんたの場合はパンツ見た瞬間にその対象に『快』のサインが固着する」

「へえ」

「本体ぶっ飛ばしてパンツの方が愛しくなってるだろう」

「そのとおり! なんでわかったの!?」

「気の毒な本体・・・」



「まったく、なんてくだらない相談だ」

「メールで済ませろって感じだよな」

「あーんーたーがーだー」

「いたい痛いいたい、チョークスリーパーかけないで」

「悩みっていうから、あたしゃてっきり例の、なんだっけ、関西の、あんたと仲のいい」

「ああ食い倒れ人形」

「やかましい、ほら、あんたとよく遊んでる」

「ああづぼらやのふぐ」

「つぎ殴るからね、だから、よくマンザイやってる」

「ああニシ君ね」

「それだ、それと不倫かなんかになったのかと思った」

「ああパンツの本体ね」

「Ω」

「うあっ!! ビール思いっきし吹き出し、わっ、まともに浴びたし!・・びしょびしょだ、ひどー」

「ヒーガーシーあーんーたー」

「痛たたたたた、関節技キメないで、嘘だからじょ、冗談だから! うわーいっちゃん、勘弁してー!」

「ほんとに冗談でしょうねえ」

「はいはいはいはいはいはいはいはい」

「ハイの数が多すぎる」

「はいっ!」

「悪さしないように、指いっぽんポキッといっとく?」

「やめてやめて、しませんしません」

「・・・まったく。シャレにならないこと言うんじゃないよ」

「ねえ今のワザ教えて」

「懲りてねえ!」

「いたい痛いいたい」



「イチコ様、ビールのおかわりをお持ちいたしました」

「よろしい。座りなさい」

「はっ。おつまみはあつあつのおでんでございます」

「真夏に、この猛暑になに買ってくるのあんたは」

「いや、これがおいしいんだって! まじで!」

「片手にビール持ってたら食べられないよ」

「はい今お箸であーん、して差し上げますので!」

「あーん」

「どうぞ!」

「・・・うむ。うまい。て言うか人に食べさせてもらうのが楽しいね」

「女王様気取りでどうぞ」

「女王、おでん食べないだろう」

「いや、おでんの国の女王様ですから」

「また庶民感みなぎる国のクイーンだなあ」

「はんぺんの冠かぶってますから」

「日持ちしないなあ」

「ドレスは昆布」

「磯臭いだろ!」

「あーっ!!」

「な、なに!?」

「スルーパスがカットされたーっ!」

「試合観ながらよく関係ない会話できるなあ」

「わっ、うわーっ!!」

「なによ」

「今のファールとられないのー!?」

「知らないよ、あたしルールわかんないし」

「え、えっ、えええーっ!!」

「今度はなんだ」

「監督がクールビズ」

「それがどうした!」



「で、ニシ君はどう」

「関西にて堂々生存中!」

「いやそれはわかってるけど」

「最近あってないから」

「ああそうなんだ、どうしてるかねえ」

「・・・」

「?」

「・・・・」

「おいおいおい、微妙に焦点のずれた視線で虚空を見つめないでくれ」

「・・・新地」

「なに?」

「・・・新地・・の、キャバクラ、に・・いる」

「ええー!」

「・・店の名前は・・・『フー!』、友だち、・・・ニコやん、と一緒に、・・いる」

「こ、怖ええー!なに受信してんだヒガシ、おーいやめてくれ、マジで引くわー!」

「あああっ!」

「うわあ、なんだよ!」

「今のシュート惜しいっ!」

「瞬時にサッカーに戻るな!」



「あ、メール」

「ああ血の気引いた。怖いよヒガシ。受信は携帯のメールだけにしといてくれ」

「て言うかニシ君だし」

「え」

「『新地のキャバクラにいます(笑)友だちにむりにつれてこられちゃいましたあ(*^-')ノ☆;:*』」

「うわっ・・当たっ・・た・・?」

「写真」

「ほ、ほんとだ」

「嬉し気にピースしてますけども」

「・・・かわいいなあ」

「でしょ?」

「ちょっとかわいすぎないか」

「あたしもそう思う」

「いやそんなぬけぬけと、写真見つめすぎだぞヒガシ」

「・・サンドベージュ、・・に、青、・・・のチェック柄、裾に、・・マリンブルー、のパイピング・・・」

「な、なに!?」

「今日のパンツを透視。ほんとかわいいなあ」

「Ω」


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