漫才未満・WEST


「どうも、久しぶりー」

「おう、元気?」

「どれくらいかによるねん」

「元気の度合いが」

「そ」

「兵隊さんの位で言ったらどれくらいや」

「まあ、初等パリパリの衛生兵」

「さっぱりわからん」



「なんやニシらしくもないやん。どうしたの」

「むつかしいわ」

「算数がか」

「そう。掛け算の7の段が難しゅうて、難しいて・・て、違うわ!」

「おれ6の段のほうがむしろ苦手や」

「ろくいちがろく〜、ろくにがじゅうに〜、て、掛け算もういらんて!」

「そしたら割り算か。分数とか」

「ああ分母と分子」

「あれカワイソウやな」

「なんで!」

「母子家庭やん」

「ええー?」

「なんぼやっても父でてきぃひんねん」

「たしかに母と子やけど」

「オトコとしておれがお前らの面倒見たるわ!って気ぃしてきますでしょ」

「いや、せんけど」

「しやからニシは女関係うまくいかんねや」

「なんで!て、おまえボケながら悩みの本質つかんといて!」



「ああやっぱり女ですか」

「うん」

「いや前からみんなで言いよったもんな、ニシぜったい女でしくじるって」

「しくじってないて!ふつうに悩み聞いたってて!」

「しゃあないな。・・どうしたんや」

「いやおれ家庭とかありますでしょ」

「腹にすえかねるわ」

「いやそんな苦々しく!?もっと友として広い心で聞いたって!」

「なんぼ出すねん」

「お金とりますの!?」

「十円でいいわ」

「安っ! それ逆に悲しいわ」



「しやから、おれカミサンいてねんけどそれでもなあ」

「なん、女でもできよってんか」

「まあ、かんたんに言うとそれにちかい」

「複雑に言うてみい」

「ぼー・ぼぼぼー・ボーヴォワール?」

「『おまえ語』でフクザツに言われてもわからん!」

「いや、おれ仲のいいおねえさんがいてますやろ」

「ああ聞いたわ、東京のひとやろ」

「目ぇ黒くて手と脚が二本ずつあるねん」

「そらそうやろなあ」

「直立してるわ」

「いらん説明してややこしすな」

「おれのこと好きらしねん」

「そら普通やないな」

「なんで!」

「いやな、目が真っ赤で手足あわせて六本あって四つんばいのがニシに惚れるなら訳がわかるわけや」

「ムチャクチャ言うな」

「直立歩行するほどまっとうな人間が、なんでおまえなんかにひっかかるんや」

「おまえの中でおれのランクどのあたりやねん」

「プ」

「プ、てなんや」

「ヨン様ておるやろ」

「微妙に古いなまた」

「おれらのオカンやらオバアやら、まあ言うたら年上や。そういう女にもてるのがペ・ヨンジュン」

「年上のくくり大きいなー」

「もっと上の世代の女にもてるのが、ポ・ヨンジュン」

「上の世代て」

「ご先祖様や」

「故人!」

「で、オカンまでいかんけどかなりの年上にもてるのがプ・ヨンジュン」

「おまえに相談したおれがアホやった」

「『ピ・ヨンジュン』と『パ・ヨンジュン』の定義は聞かんでええか」

「もうええわ」



「そしたら、そのおねえさんに迫られてるわけか」

「いや、べつに迫られんけど」

「なんやそれ。したら、おまえのほうがごっつ惚れてもうたんか」

「いや、べつにそんなやないけど」

「ベイベーでもできたんか」

「ベイベーて。いやエッチしてひんから!」

「うわっ、しょうむなっ」

「しょうむないんか」

「当たり前や。男と女のことはまずエッチありきでしょ」

「いやおまえ、その断定ぶりはどうよ」

「そこまで行ってややこしなってから相談せえや、ああ気ぃ悪い。はい終了ー」

「いやいやいや、勝手に終わらんといて!もっと微妙なキモチの問題やねん」

「そんなお子さんレベルのつぼ八トークは細木数子にでも言うとけや、あほぼけかすひょっとこ」

「なんでキレんねや」

「おれなんか・・おれなんか・・・」

「泣き出す!?」

「きのう、ようーやくアイちゃんからメルアド聞き出して」

「アイちゃんて誰や」

「新地のキャバクラ『フー!』のナンバーワンや」

「ニコやんおまえ相変わらずやな、しかし『フー!』て」

「喜び勇んでメールしますわな」

「なんて書いたんや」

「『アイちゃんに奉げる歌をつくったので添付します・こんど店外デートしませんか』て」

「歌つくるか!? で、返事はどうやったん」

「『歌ありがとう☆また見ときます☆また指名してね☆またメールするネ☆』」

「うわあ、脈ないことおびただしい!」

「『また』三連発や」

「ヒサンやな」

「マタマタマタ」

「三回言わんでええねん」

「♪アイのアの字はアカンのあ〜♪ アイのイの字はイケズのい〜♪」

「それがつくった歌か!? そんなん、おれでも振るわ!」



「で、おねえさんがどうしたんよ」

「しやから自分でももうわからんて」

「おまえはどうなの。どうしたいの」

「なんや、親しくしといたらオトクな感じはすんねん」

「なーん、利得関係か」

「ちゃうって!そういうの外しても、なんやいろいろ鍛えられる気ぃするっていうか・・」

「そら年上やからいっぱい経験値つんでそうやし」

「うーん、そんなんもありありやけど、ああいう人おれ初めてやねん」

「どんなんよ」

「へんな人ですねん」

「言い切るなあ」

「変わってんねん。言わはることぜんぶ冗談やねんけど」

「そらおまえからかわれてるわ」

「いや、ちゃうって」

「どう、ちゃうんです」

「なんやおかしな世界に生きたはる人ですねん」

「ニシがそういうからには、そうとう変わったひとみたいやな」

「せや。面白いねん」

「面白いんなら付き合うとったらええやないか」

「そこや。おれ、カミサンいてるわけで」

「ああー、カミサンのほかに興味もつ女いてたらあかんわけやな」

「そや。おれどうしたらええねん」

「知るか。おまえがわからんものを、おれがどうこう言うわけもないわ」

「うん」

「おまえが興味あるなら親しくしてたらどう。カミサン傷つけない範囲で」

「それがカミサンめっさ嫉妬すんねん」

「そらそうや、て言うかそれ一番むかつくわ、なーんやニシて可愛いカミサンおっとってんのに別のんにも無駄にモテて」

「やばいか、これは」

「やばい言う以前におまえ腹立ちます」

「ほんま悩んでんねやけどなあ」

「おさないわ、ニシまじで学生時代と変わってひんやん」

「んんー」

「かわいい顔すんねや。犯すぞ」

「いやん、やめてニコやん」

「んんー」

「ちゅう」

「げはっ」

「キモいキモいキモい、やめとこか」

「ほんまや、おまえのそのムダにキレイなツラと向き合うとると、本気あたまどうかするわ」

「・・・ヘンタイ☆」

「くねくねすんなや!」



「ああキショなった、ニシはモテるぶんだけややこしなあ」

「モテてありませんて。ほんま参ってるわ」

「そしたら買お」

「なにを!」

「おまえのモテや。お値打ち価格のを一個くれ」

「一個ニ個て数えるもんなんか」

「じゃまくさい、プレートにぜんぶ盛りあわせてまとめて出しぃや」

「そんなもん盛りあわすなて」

「サラダバーもつけて」

「おまえ頭の中でモテの概念どないなってんねん」

「ドリンクセットで」

「ファミレスか」

「盛りあわせにサラダとドリンクつけるとサービスで小鉢がついてくんねん」

「なんの!」

「非モテや」

「いらんやん!」

「その小鉢はおまえにやるから早くモテをぜんぶ出せ」

「しゃあないな、タダでええわ」

「ポケットから何、て、それはモテやなくて!」

「モチや」

「・・・・・」

「ようやく黙った」

「ニシおまえなんでモチを持ち歩いてんねや」

「いや、きょうの話のサゲはそっち行くかなー、と」

「おれがモテを出せ、言い出すのん見越してモチ持ってきたんか」

「そや」

「おまえエスパーか」

「なんやヒガシさんと付き合うとると自然にこんなんなんねん」

「ネタ見越して下準備か」

「そや」

「先の先を読むわけか」

「そや。それくらいせんと話についてけへんねん」

「どんなおねえさんや、それは」

「素人マンザイに命かけてる一種のエスパーや」

「ああ、そら普通やないな」

「ね?」

「ね? やないやろ」

「な?」

「な? でもないわ」

「こんなんなんで困ってんねん」

「やっとわかったわ。ニシ、それたぶん『かかわり合うたらいけない人』や」

「ああ、やっぱり」

「もう遅そうやな」

「おう」

「・・・新地のキャバクラ、行こ」

「行きまひょ」

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