転びましたね


 めずらしくお参りのかたがいらっしゃったと思いましたらインタビュウですか。

はいわたくしインタビュウという言葉を知っておりますなんでしたら良い発音で申し上げましょうかインタヴュウ。ヘーイヨーガーイズ・ワツアプ?

 ええわたくし英語はなせます意外ですかそうですかドイツ語も広東語もスワヒリ語も話せますよ。ラテン語もヘブライ語も。そういうものなんです。

 はいはい。トランスパーソナル・ゼーレ。最近かなり流行ってまいりました概念ですね存じておりますよ、あちらの世でもそんなことを言う方がちらりほらりと増えてきたような。
 ええ死んだってやっぱり気になるものは気になるんでございましょ。
さいわい死んだ後なら考える時間はたっぷりございます。
 まあ正味、亡くなる瞬間の0.0001秒ほどの意識が、そのまあいわゆるブラックホールのような按配で、永遠に引き伸ばされてるだけではございますけれどね。主観的には時間はたっぷりたっぷりです。薄まってますが。

 そうですな、わたくし自身といえば考えたことがございませんでした。
 しかしまあ、ご仏縁によりこうして訊きに来てくださる方があったというもの、ひとつゆるゆるとそれを探し出してみましょうか。

 ああ、ところでここに来られる途中に転びませんでしたか。転びました。転びましたね。あそこの、四辻のそばにあるつつじの植え込みの前ですか。
 は。そう。ああ申し訳ありませんなあ。あそこは地面からひょいひょい手首だけを出して人様の足をついと引くいたずら者がいるのです。なに、ただの踏み迷った子供に過ぎませんがな。
 十五年も前にあの近くでトラックに跳ね飛ばされて死んでおります。供養も終わっておりますし、いつでも成仏できるのですが、何が楽しいのかああしてついついと人の足を引いておりますな。悪気はないのです。人が転ぶ のが面白おかしいというくだらない理由でして。
 なになに恨みも執着もなんにもございません。ああして可笑しがっているだけなのです。不憫ではありますがな、あの辻も車が通ります、転んだ人がたまたま車道に倒れたところに、車が来たらどうするのか、そう言って常々叱っておるのですがな。その時はしゅんとしてもまたぞろ遊び始めます。困った子です。

 あの辻の向こうにスーパーがあるでしょう。
 あの地下の、鮮魚売場の前にも困った子が出るのです。
 床から顔だけ出しましてな、買い物に来た奥さんがたのスカートを覗いて喜んでおるのですよ。これは小学六年生の時に重い患いでみまかった男の子ですけれど、やっておることはまるで痴漢です。
 勘の利く奥さんなぞは、ここの床が生あったかくて気色が悪い、なぞと言って靴のかかとで散々に踏みつけますな。
 自業自得ですが、またこの子が痛い痛いと泣きながら、顔を腫らしてわたくしのところに来るのです。これもまた困った子です。

 この辺は、地名を見るとおわかりでしょうが、昔は谷になっておりました。
 それを埋めて無理やりになだらかな土地にしたわけですな。
 ところがこの土地のたましいの方はまだ谷のままですから、いたずら者どもが跳梁跋扈するのに良い塩梅になるわけです。
 あの子らから見れば、また土地の記憶の方から見れば、はるか空の上を、今の人間さんがぞろぞろ歩いているようなものですからねえ。飛んでいって足のひとつもつかんでやりたくなるでしょう。

 世界中そうなってきているようですよ。
 いろいろな過去が重なり合わずに同じ土地でありながら重複したたましいを持ち始めておりますな。
 そこをまた子供らがコンピューターゲームのステージのようだと言って喜んで遊びますからな。
 わたくし段々そうした子らを導き護っているのか、くさびのようにここに繋ぎとめているのか、わからなくなって参りました。
 それを考えるのが、この地蔵の、トランスパーソナル、その、なんとかなのかもしれませんなあ。

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