オトントーク・2006



「(テレビを観て)あーあー、ひどいのう。また子捨ての話じゃ」

「あたし京都で観光タクシー乗ったとき、運転手さんが70代の女の人でね」

「ほう」

「“お客さん、東京にこういう地名はありませんか”て、生き別れになった親御さんの本籍、見せられた」

「ああー、ほうじゃのう。子供はいつまでも親を探すもんなんじゃ」

「そう言ってた。死ぬまで、探しますって。・・もうなくなった地名だったけど・・・」

「えらいことじゃのう。パパの若い頃は、よくオンリーさん言うて・・」

「ああ知ってる。占領軍の兵隊の愛人さんでしょ」

「生まれるのが、黒人さんのハーフなんじゃ。差別、ひどくてのう」

「山口県の岩国、って基地があったんでしょう。パパそういう近くで育ったの」

「あれはほんまにひどいもんで、育っても男親がわかりよらん。何十年もたってからアメリカに探しに行くんじゃなあ」

「つらい話だね」

「その頃パパはようアメフトの道具を」

「はあ?」

「昭和二十年代、日本では売りよらんのじゃ」

「アメフトの」

「ほいでー、パパは法政大学にスポーツ入学しちょるから、アメフトのもんをいちいち基地に」

「米軍の!?」

「立川やらに放出品があるんじゃ。しゃけど半端モンしかないけんのう」

「うわあ」

「頭にかぶるやつはパッとした黄色」

「派手!」

「上着は赤ぁいの」

「それチームが違うよ」

「下にはくのは真っ青て、バラバラじゃけど」

「信号かい!」

「当時はカッコいいー、思うて、自慢しちょったわ」

「だせええー」

「バイクをばりばり乗り回すにも、ヘルメット、そのアメフトの真っ黄色の」

「馬鹿っぽい!」

「カッコいいー、思うて、かぶってのう」

「アメフトのメットでバイクに!?」

「サングラスもついちょらんけえ」

「アメフトのヘッドギアですから」

「水泳のゴーグルじゃ」

「なんのコスプレ」

「しかも結婚前で付き合っちょったママがそれ見て」

「ふつう引くでしょ」

「“きゃあーショウちゃんカッコいいー”言うからのう」

「アホだわ」

「パンパンガールみたいな真っ赤な落下傘スカート、のママを後ろにのせて」

「オカンも調子にのりすぎ!」

「県道を行ったり来たり」

「やめて、はずかしい」

「ママは広島から東京に出てモデルやっちょたじゃろう」

「ど派手でございましょう」

「広島では誰もそんな風俗やファッション知らん。みんな表通りに出てきて感心しちょったわ」

「わたしの両親、アホ認定」

「アメフトのヘルメットで後ろママのせてばりばりじゃ」

「それ思っそドキュンのバカップルです。かっこ悪いです」

「今ごろママ天国で大笑いしちょるわ」

「死後に気づいても遅いし」

「でワシとママは、そのころ広島に一軒二軒あるか、ちゅうオシャレなバーに入ってのう」

「自信満々に!?」

「ごん、とカウンターにヘルメット置いてのう」

「アメフトの」

「懐からおもむろに、フィルターつきのピースじゃ」

「は?煙草?」

「その頃フィルターの煙草なぞなくて。缶ピースが出た頃で」

「昔だなあ」

「まだ統制で一人ひとつしか買えんから、東京で大学の後輩に全員ひとつずつ買ってこい!言うて」

「うわ体育会系、最悪」

「あつめた二十缶のピース、大事に荷物入れて広島かえってのう」

「うわあ」

「好きな女の前で、こう、斜めむいて格好つけて火ぃつけるんじゃ」

「ばかだわ」

「今こっち見る!瞬間に。そうでないと吸ってみじかくなるじゃろ?」

「バカー」

「で、気取って吸うてもその女が見てないと、またやりなおしじゃ」

「ほんものバカー」

「すいがら、また格好つけて吸おう思うてぜんぶ拾い集めて帰ったわ」

「本造り蔵出し醸成バカー」

「そしてまたアメフトヘルメットのバイクで、好きな女のいる店の前を行ったり来たり行ったり来たり」

「あたしバイク馬鹿にそれやられたことあるけど、ただの迷惑よ」

「いや、町じゅうの人が出てきてあれは誰?ウワサしよったわ」

「ぎゃー」

「あれは広島から東京の法政に行って、アメフトと水泳しよるショウちゃんよ!て、大スター」

「ノリがローカルすぎます!」

「イエー、ピース、ピース、しちゃったわ」

「さ、最悪」

「当時はおもしろかったのう。ええ時代じゃった」

「・・ありがたい昔話を、ありがとうございました」


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