ラッパー未満



「どうもーお疲れさまー!」

「あ、はい。あの。・・・どうも」

「わあー今日もそのTとか帽子とか可愛いー!」

「あ、そうすか、はい」

「ううう、靴が。靴がadidasマイクロペーサー1984だ・・」

「えと、詳しっすね、あの」

「それ万歩計がついてるバージョンのリバイバルでしょ、今日は何歩くらい歩いたのかな?」

「え、いや。あの。ええとバイクだから・・・カウントは・・・19歩」

「少なっ!」

「あ、歩くの。苦手なんす・・」

「そうなの、じゃあ後で背負って歩いてあげる」

「おれ、重いっすよ。・・どうせデブだし」

「自分で言うほど太ってないわ!つうかお洒落うまいから全然わかんないよ!自虐ネタは、今日はナシでね」

「あ、はい。・・ほんと、いいんすか」

「っていうかジャージが」

「あの。トラックジャケット、すけど」

「PUMAビッグキャットのコーラルブルー・・・ヤバイ萌える・・・」

「だ、いじょうぶ、す、か」

「ああ鼻にティッシュつめたからもう大丈夫!」

「・・なんで、いきなり鼻血出してるんすか」



「いやプーマがあんまり素敵なんで速攻で鼻血ふきました!」

「あの、おれ名前、違うんすけど。おれユーヤ、・・ですけど」

「はいはいでもプーマって呼ぶことに決めたの。あたし的には尊称の第一位ですから」

「・・よく、わかんないっす」

「じゃあプーマ、今日はどこに行く?」

「あ、ええと・・・・・・・」

「?」

「いや・・・・・」

「どうかしたの?一緒に出かけるの本当はイヤ?体調でも悪いの?」

「あの。あの」

「はい。なあに」

「おれ、喋るのも苦手、す・・・」

「うわあ、あたしの漫才人生史上もっとも難しい相方キター!」

「く、口下手で。じ、自信もない、し・・・」

「あ。ちょっと待って」

「え。あ。あの・・座りこんで、そんな。平気すか」

「ごめんまた鼻血が噴き出したからちり紙詰め替えるわ」

「・・ヒガシさんて、よく鼻血が出るんですね」



「つうかプーマ可愛すぎ」

「あ。いや、おれなんかダメっすよ・・」

「暗いわー!萌えるわー!」

「く、暗いと萌えるんすか・・・」

「おどおどしてなおかつ緊張のあまり失敗とかされると、もはやダメー!」

「あのう、また鼻血、すごいすけど・・・はい、これ汚いすけど・・・」

「・・・!六重に折りたたまれてちっちゃくなったボロボロのハンカチ!すごいわ!萌え死にするわ!」

「なんかおれ、全然ついてけてないんすけど・・」



「えー、鼻血で消耗したのでカフェに来ました」

「ここ、外から厨房みえないんすね。ラテもちょっと高いす」

「ああ職業意識。フレッシュネスのバイトは、どう」

「・・時給、かなり安いす」

「でも店員さんは全員オシャレよね?」

「しかも渋谷のトップ店、すから・・・服みんな命かけてるす・・」

「ああーそれは大変そうだー」

「格好わるいと勤めにくいんす」

「やっぱりかあ」

「おれなんて・・デブだから・・・」

「だから!全然イケてるから気にするなって!」

「けっこ気つかって服とか頑張ってるのに、もたもたしてるって怒られて・・」

「うーん。プーマ暗い。なおさら萌えますけど」

「うちの店、ヒガシさん来るようになって、・・おれにだけ声かけたでしょう」

「うんだって可愛かったんだもん」

「他のバイトに、すげえいじめられました」

「ぎゃあ!ごめんごめんごめんー!」



「いじめてるのは誰?あの髪がオレンジの痩せぎす?鶴のタトゥーの背の高い子?」

「あ、それ男連中・・・は、優しいす・・・」

「そうなの。じゃあ誰に?」

「女子・・・」

「あのクールでポップな可愛い子ちゃんたちか!」

「そうとう、いびられますよ・・・」

「嫁姑のハナシみたいだなあ」

「おまえお客に気に入られて調子のってんじゃないよ!て、足引っ掛けられてスムージー床にぶちまけたり・・」

「大奥っぽい」

「おれ、そんなに女子から見るとやな感じでしょうか・・・」

「あああ暗くなるなって!それは可愛いからいじめやすいんだよ!」



「ほんと、自信ないす・・女子とか」

「いや、ほら今日は自信まんまんで!まじイケてますからって!」

「・・どうせ」

「な、なに?」

「持ち上げといて落とすんでしょう・・おれのことバカにしてるんでしょう・・・」

「く、暗すぎる!」



「すごい、なかなか漫才にならない」

「え、漫才て。あの」

「無理にネタふるか!はいー本日も渋谷の朝ぼらけですねー!」

「いや、昼、ていうか。もう午後・・・」

「その調子!今日も道玄坂スタジオから生中継でお届けしてまーす!」

「あの。ここ公園通り・・・スタジオって・・・」

「そこだ!」

「え、あ、は」

「そこを勢いよく自信もって!“朝ぼらけって何やキミお昼さんや!どっこが道玄坂やねん公園
通りでしょ!しかもスタジオ違うわ!”って」

「あ、無理、そんな、ヨシモトみたいな」

「そこを気合いでヨシモトる」

「む。無理す」

「そこは“できるかいなアホかあー!”でしょう!」

「おれ、お、おれ関西弁は、できないっす・・」

「ああごめんハードル高かったね、じゃあ標準語で、きつい返しを」

「それも・・おれ、実は東北で・・」

「あああおいしい!」

「おいしいんすか」

「ぜひに!“オラずぃっつわトウホグだがらあ”って!」

「いや、急にそんだ訛れねえっすよ・・」

「あっ訛った!ステキ!」

「え、こんで、いいんすかね?ほんどにこんだで」

「ぎゃあプーマ素敵すぎる!」

「なぁにを喜んでんだが、よぐわがりませんて・・」



「ふるさとは米どころですか!?」

「なぁに言うんですらあよぐ、わがんねっ」

「ああキレがちにB系が北方言葉で!素敵なトークになってきました!」

「米は、つぐんねえよつぐっても増産増産で間んにあわねし、おれらJAの小作人じゃねえっての!」

「うわーすげえーネイティブスピーカー」

「あんだ東京もんだ?おれだつトーホグの苦しみよぐわかってねえべ?」

「あっ、そろそろマジですねプーマさん」

「馬鹿にすたらいげねえー!」

「わあキレた!」

「もうおれだち日本国から独立するでばー!」

「わあ、“吉里吉里人”みたいだ!」

「♪吉里吉里人はまなこは涼やかでえー♪」

「うわ知ってたすげえ読書好きなB系だ、てかお国訛りもういいって!」

「お洒落こいてる東京モンは、全員炭俵で撲殺するだ・・・」

「ちょ、プーマさん暗い目の輝きが本気っぽいから!怖いから!」



「そんなちょっと怖いプーマさんと、やってきました上野です」

「ふるさとの訛りなつかし、とか、言わそうとしてるんでしょう・・」

「どんな文系のB系なのキミは!国語的に疑い深いにもほどがあるわ!」

「あの」

「なあに、帽子ひっぱって目深に。どうしたの」

「ラップ、聴いてくれるっすか」

「ええ!」

「“Heyおっさん!YoGoDown!Way go、上野、Way no!”」

「うわあカッコよく踊り始めた!ラップだと途端に饒舌に!」

「“キミ帰れねhometown lowdoun、駅でワックにsaroundless homeless”」

「見事だ、出稼ぎホームレスの悲哀を・・」



「おれ、ラップでしかまどもに話せねっす」

「素敵なキャラ設定です」

「こんだだから店の女子にもいじめられて・・」

「こらこら暗くならない!ほら靴が、マイクロペーサーがカッコいいわよ!」

「・・これも、“なにユーヤその靴バカじゃねえー万歩計ついてんの超ダッセ!”言われで・・」

「いや1984年に見たときはあたしもそう思いましたけど」

「前に、エアマックス360履いてだんですよ」

「すげ今年の冬かなりキテた最新モデルじゃん」

「“今どきエアマックスかよバカ!”って、踏んだり蹴ったり」

「物の価値のわからん女子たちだな」

「バイトでシバくんが同じの履いてたときには」

「ああ、あのモテそうな子ね」

「“超イケてる!すげカッコいい!”って大さわぎ」

「ひど。・・ってか同じ店のバイト生で、同じ靴を偶然はいてたの?」

「いや、シバくんがおれの貸してって言うがら・・」

「靴、貸し出すかなふつう」

「シバくん、まだ返してくれでねえっす」

「それ!狩られてるから!あきらかに狩られてるから!気づこうよプーマ!」



「あ、おれエアマックス狩りされたんすか」

「ぼんやり言うプーマが素敵です。エア狩りか。秋だからね」

「秋、なんか関係あるんですか」

「ほら、ぶどう狩りやら梨狩りやらもみじ狩りやら」

「ああ、秋の行楽っすね」

「オヤジ狩りやら」

「茶髪狩りやらオタク狩りやらメイド狩りやら。・・都会はいじめでいっぱいだあよおー!」

「あ、今のボケにそう来るか。む、難しい相方だなこの人は・・・」

「なあにぶつぶつ言うでるんすか!」



「まあ、心を落ち着けてアートでも観ましょう」

「・・アートかい・・アートでさぐもつが実るかいね・・はー都会モンはほんどに気楽でまあ・・・」

「プーマ、それ面白いけど気分が滅入るからやめようね、はい上野の森の美術館ですよ」

「・・どっこが森だあね。こんだだ森だったらオラどこの裏庭なんが密林なのねっす・・」

「面白いけど、ハイやめて。ダリ展、すごい行列だねー。入れるかなー」

「・・ほんど都会モンはすんぐ行列つぐってやんだあなじょしてかじょしてあんずましい・・・」

「あの、もはや聴き取り不可能」



「す、すごい混雑だったね」

「行列のまんま入口から出口まで押し流されたっす」

「信じがたい強制スクロールっぷりでしたが」

「あでも、絵は面白かったっす。観客はひどいっすけど」

「ときどきキレがちにスラングを叫んでいらっしゃいましたね」

「・・前にいた婆さん二人連れ・・・」

「声がうるさくて迷惑だったわね」

「つうかずっと、孫の描いた絵を見せ合って自慢話してたっす」

「何しに来たんだ!」

「後ろの家族連れは、昼に何を食うかでずっと口論してました」

「会場の外でやってほしいものです」

「あと和服の」

「いたわ!和装お母ちゃんの団体様」

「どの絵見ても“あらまあ〜あらまあ〜上手ねえ〜”って言ってたっす」

「いや、宣伝過剰な美術展は、えてしてこのような有り様に・・・」

「♪DALI? check’t now darling? ワックなfamilyがシェケってburnin’!」

「あっ怒りながらラップを!」

「♪Hey殺せ殺せ殺せ・殺せ、コロシアムのよなthat’s混雑!gone that’s,way No!上野!」

「あの、あんまラディカルにならないで・・チルしましょうよ・・・」

「なじょにもかじょにも許せねえだばはあー!」

「わあ、また怪しい訛りに!」

「土産モンが高すぎるのねっすー!」

「ああ、“ダリうちわ”420円」

「あれ、ダリの顔のコピーに割り箸つけただけっすよ」

「ひどいわ。購買者を馬鹿にしてるわね」

「割り箸にされたお山の木たぢが泣いてるだあー!」

「そっちか!あくまでも第一次生産者側の気持ちか!」

「許せねえだあー!!」

「その通りだあー!!」

「シャウトしたら汗かいたっす、ちょっと扇いでいいっすか」

「きみ“ダリうちわ”買ってるじゃないか!」

 (とりあえず完)

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