コスモをめぐる旅。


昨年末、ヒロシマのおばあちゃんが亡くなった。
ハワイ生まれの洒脱でゆかいなおばあちゃん。
たぶん永遠に生きる、と確信していた大好きな人の逝去だったので、わたしはひたすら呆然としてしまい、出遅れて、そのお葬式にも駆けつけることができなかった。
めっさ遺恨である。
このたび、ヒロシマの地でその納骨式が行われることになった。
行きます行くんだ行くのさ行くとも。
スケジュールの厳しさも旅費の乏しさもとりあえず忘却して、わたしは旅行の予定をがごんと立ち上げた。
なにしろ、おばあちゃんが神にならはったことをお祝いする儀式(神道なのだ)だから。

ずずずずー、と喪服入りの荷物を引っぱって東京駅に参じる早朝。
愛・知窮迫、とかいう万博のせいで新幹線はめっちゃ混みだ。
それでも何とか指定席に潜りこみ、鶏ごぼう照り焼き弁当をひざに乗せて、ラララ旅は始まった。

行きの新幹線の中で書いたメモ。

・11:29 のぞみ49号内/ものごっつ巨大な白人のおっさんが隣座ってます。
座席みっちみちに手すり壊れる位太ってます。
エコノミークラス症候群で急死するんじゃないかと心配です。

・13:30 名古屋から乗ってきた子供四人がふたつの座席に無理無理座り、全員エビフライ食ってます。

明日は納骨式で忙しいから今晩の、イランVS日本代表サッカー試合が観られんけぇわたしの代わりに応援しといてー、と知人にメール打ちつつ。

福山から在来線に乗り換え、窓から見える民家の多くが屋根に朝日ソーラーを装備していることに驚きつつ、電車はがたごと山奥に向かう。

わあー、なんだかこっち雪が残ってるぅ、と感心したのも束の間。
周囲はどんどん白くなり、トンネル抜けるたびに白くなり、
風景、まるまる銀世界だっつうの!
桜もへらへら咲いてる東京では暑かったニットの上着が心細くなる冷え込みと、容赦ない雪景色の光景にありゃりゃと狼狽しつつ、
秘境。
雪と寒風とクリアな日差しに彩られた無人駅に到着。

子供のころも今も、心のオアシス&パラダイスである小さな町に降り立った。
おばあちゃんの町。
山と清流に囲まれた、のどかで清清しいところである。



ん、ちょっとスリルもある。

誰にも行き交わないメインストリートをたらたら歩いていくと、おばあちゃんちの前で叔父が、ホウキで雪を掃きレレレのおじさん化していた。
一足先に、やはり東京から駆けつけたロマンスグレーな喪主のなオジキ。
「やあ、マミ(本名からきたわたしの愛称)。よう来てくれたなあ」
ちょいと広島弁に戻ってるオジキににこにこされて、わたしはアホの子のようにえへへへー、と笑う。
ここに来るなり、夏休みの子供だった頃にすぐ引き戻されてしまう。
思い出ばっかりの場所。

たぶん昭和15年あたりから変貌してない旧家ムードまんまんな屋敷、で叔母のチアちゃんやカスミちゃんや従妹のケーコに再会。
えへえへ言って喜ぶ。
なぜか速攻でタロット占いになる。
ケーコとカスミちゃんのことを携帯タロット(ミニチュア・ライダー)でざっと見て、
「当たってるう」とウケる。
もはや親戚の中でもわたしはそういう占いキャラだ。

オジキ、突然。
「ああマミ、今夜は10時半からサッカー観ような」
はあ? 明日は式で朝が早いんでは?
「いや、マミはサッカー観るだろう。そう思って、みんなでその予定にしてるからな」
もはや親戚の中でもわたしはそういうサッカー好きキャラだ。

叔母のチアちゃんも、突然。
「ああマミさん、二階の鎧の部屋にお布団用意したから」
はあ? あの子供が泣いて逃げ出すふるい鎧の鎮座する座敷に?
「だって、マミはあの鎧がすきでしょう。へぇんなの。みんな怖がるのに」
もはや親戚の中でもわたしはそういうオカルトキャラだ。

正直、旅の間ぐらいはやむなく禁酒できるんじゃないかと思っていた。
三月はハイテンションで遊びすぎ、その上ノルマみたいに毎日一本おなかに一本ワイン、を暴飲するのが止められないので、そろそろ肝臓の裏辺りの背中がみしみし痛んでいたのだ。
とんでもない。
酒好きな家系に生まれた宿命である。
誰か来たー、と言っては飲み、法事だー、と言っては飲み、法事終わったー、と言っては飲み。
どこを開けてもビールが入っている謎のレトロ家屋で、わたしの肝臓はさらなるゲートを突き抜けることになっていく。

ゆかいな神官さんが打ち合わせで忘れていった烏帽子をオジキにかぶらせ、コスプレ写真を撮って親戚じゅうに写メールでバラまきつつ。
山里の夜はふけて、
そんでもってサッカーだ。
昨日も仕事の片づけと旅行準備でろくろく寝てないわたしはハイテンションになり、
ビールがんがんいきながらテレビで観戦。
……試合結果は、日本中のみなさんがご存知の通り。

負けた。
うぐぐぐ、うががが、と唸りながら鎧部屋に赴き、眠ろうとしたものの、
ああー、ハシェミアンが2ゴール。悔しいけどバイエルン・ミュンヘンの選手はやっぱ凄いわー、とか、
何やってんだよタカさん! そこはシュート決めるとこでしょ! とか、
マハダヴィキアさんすっごいわー、見た目こち亀の両津さんにそっくりだけど、とか、
ブンデスリーガ関連のことをつらつら考えていたためか。
まったく眠れず。
うとうと睡眠一時間足らず、で、わたしは翌朝の納骨式に挑むはめになる。

なんだか周囲が白くて頭ちーかちかしてますけど、と思いつつ、8時に起きて身支度。
お客様どしどし来訪、の自宅祭事である。
いっちょ前の喪服を来てはいはい幼少の頃はたいへんお世話になりまして、と親族に頭がっつり下げて、
ゆかいな神官さんもやってきて、
式次第。正座。公式。
どあーん、といきなり神官さんが太鼓打ち鳴らすのでみんな飛び上がる。
おばあちゃんと、分骨でともに祀られるひろゆきおじちゃんの祝詞プロフィール奏上に、みんなして泣く。
その後お山のお墓に行って、お骨をおさめて。
戻ってきてさあ一献! ご馳走だ! ご馳走食ってしんみりと、てしんみりしない、座敷にどわー、席並べて昼餐である。

ウマー、とかご馳走に集中していたら、親族のお姉様が、ごく真剣に占ってもらいたい問題が今ジャストここにあるからタロット見て! とのご要望。
どっしよかなー、とうつむいて考えた。
携帯タロット持って旅するわたしはいつでもどこでも人様の悩みがあったらオッケー! で見る人だ。
しかし、この2日ろくに寝てないやばい体調で受けてもいいのか。
調子悪いと、あまり占断の精度が上がらないので……と言って断ろうかと思った瞬間、頭のなかでいい加減きわまりない声が響いた。
「コスモを燃やせ!」
なんだそりゃ、どんな指令ですのん。
「占い師の端くれなら、悩んでいる人を見過ごしてはいけない! 燃やせ! お前のコスモを今こそ、燃やすんだ!」
無茶言わはりますな、と思いつつ、コスモあんまりないけれど、手持ちのコスモで勘弁していただくことにして、わたしはご相談を受けた。

占い、始まってしまえば自分の世界。とおっしゃったのは如月あめり先生だが、その名言の通りわたしも自分の体調なんか忘れてきっちりプロをした。
お姉様、興味深く結果を聞いてくだはり、納得して気を軽くしてくだはって、ああよかった。
台所の土間の上がり口で鑑定中(どんな鑑定スペースだ)、親戚の3歳5歳のちびっ子が好奇心満々で突っ込んできて、
「遊んでるのぉー、ぼくもそれやりたいんよぉー」
と言いつつカードひっくり返すのを首根っこつかんでぽいぽい投げながら、
「いや、これはカードダスです」
「遊戯王です。あとで遊ぼうね」
とごまかしつつ、鑑定終了。

終わってコスモ燃やしつくして座敷に戻ってきたら、
ちびっこの「たっと」と「はぢぃめ」、男児2名が待ち構えていて、
「お姉ちゃん、さっきのカードぼくやりたいー」
突進してくる。
「いや、カードもうおしまい。他のことやって遊ぼうね」
白くちかちかする視界で必死必死にそう返すのに、たっと君ほんきでタロット気になってたらしく、上半身がっくり下げて床に両手つくわかりやすいポーズでしょぼーん。

わかりました。子供にがっかりされるのもタロット占い師はたまらないよ、やったろうじゃねえか。
たっととはぢぃめをがっつり抱えてタロット持って二階の鎧部屋へ。
ようし、遊んだる。

結論から言うと、ふたりのちびっ子はタロットの天才であった。
法事の最初から、おとなしく聞き分けいいし、遊んでろ言われたら難しいレゴの構築や国語ドリル自発的クリアで、ずいぶん頭のいい子らだなー、と思っていたのだ。
たっと、タロット持つなり、先刻わたしがやっていた「ラバーズ・オア・デス」のスプレッドを正しく置く。何者。

解釈を説明すると喜び、好きなカードを選んでみい、言ったらたっとは「ソードのナイト」、はぢぃめは「カップのキング」を「ぼくは、これよぉ」言って選ぶ。
象徴カード、さくさくチョイスしてる。
「たっと、ソードのナイトが戦うとして、ラスボスはどのカードだと思う?」
どーん。



……たぶん天才。

式次第も宴も終わり、最年少タロット占い師兄弟も帰り、静かな時間が訪れる。
「いい納骨式だったねえ」
ハワイのレイ(どピンクの鳥の羽で作られた、ゴージャスなもの)を掛けられたおばあちゃんの遺影を眺めて、わたしたちは口々に呟くのだった。

そしてまた飲んじゃって、おもしろトークもスパークして深夜。馬鹿話ができる親戚っていいな。
さすがにふらふらになったわたしは鎧部屋に上がり、電気消すのも忘れて布団に頭から突っ込んでオチたのであった。


部屋と鎧とわたし。

もはや帰京する翌朝。
わたしはオカンのスクラップブックをゲット。ツッコミどころ満載なので、前々から貰って帰りたいと思っていたのだ。
昭和30年代にけっこう売れっ子のモデルをしていたオカンは、おばあちゃんよりはるかに先に鬼籍に属している。
雑誌の仕事を、この家で昔に書店を営んでいたおじいちゃんがチェックして切り抜き、クラシカルなスクラップブックにためこんでいる。
おお、オカン。おもろい仕事してたんやねー、と思いつつ荷物に詰め込み、わたしは懐かしい旧家を後にした。

おばあちゃん亡き後、どうなるかと思ったけれど、この最愛の貴重なすてきな場所はカスミちゃんがきっちり守っていてくれる。
きっとまたすぐ訪ねて来よう、と思いながら。

で、その頃ようやく気づいたけれど、わたし納骨式を「手伝いに行く」と言っておきながら、なにも手伝ってない。
ビール飲んでサッカー観て子供と遊んでただけだ。
うわあ、役立たず。

またもローカル線乗り継ぎ、眠いー、とケーコとうとうとしつつ福山駅。
福山のクライアントさんとちょっと会う約束をしたわたしはそこでケーコとばいばい。
一番ちいさい従妹のケーコが、すごいオトナの美人になってる。なんてこった。あの小っちゃい泣き虫のケーコが。
時は流れてるんだなー、としみじみ。
想い出振り切って、とりあえず一人で飯を食う。
広島まで来たんだから「うろん」でしょう。わしゃうろんがええよ(by「はだしのゲン」)。
そんなわけで、「天肉うどん」。



さぬき系の澄んだスープを台無しにする牛丼チックな濃い肉がどーん、
さらに海老のてんぷらもばーん、で、大変なことになっているうどん。
甘辛い甘辛い油っぽい油っぽい、と呟きながらいただくと、おつなもんでござんすよ。

そして新幹線の自由席、に飛び乗ったらうっかり喫煙席で、
ぼふぼふ煙吐くおっさんの群れにぎゅうぎゅううち混じって、
なんとなくダークなブルースとか歌いながらてれてれと本州を東に走って帰ってきました。

ただいま。
こっちの友達と、仕事と、きらびやかに汚れた東京と、ハードなタイカレーを調理して待っててくれた同居人ジャンクさんただいま。
また日常をがんばりますよ。

そんなわけで最後は、
オカンのスクラップブックの真骨頂、昭和30年代の「週刊女性」のグラビア旅記事に添えられていたポエムを勝手に転載して、
おしまいのおしまい。ちゃんちゃん。


イカス ぼくが きみがイカス
ひろびろとした空がイカス 青々とした海がイカス
ギラギラしたお日さまがイカス ごきげんなそよ風がイカス

イカス ぼくのファンキイハットがイカス
ぼくのサングラスがイカス
きみのレモンいろのシャツがイカス
きみの小麦いろの肌がイカス
きみの腰まである長い髪がイカス
イカス
ぼくのウクレレがイカス
きみのハミングがイカス

イカス
ぼくのすぐそばにあるきみがイカス
きみのすぐそばにあるぼくがイカス
ぼくときみの汗ばんだ掌がイカス
きみの鳩のようなときめきがイカス
風がイカス
草の匂いがイカス
ぼくたちの長いキスがイカス
そしてきみだけに見える
白い雲がイカス

イカス
ぼくたちのまわり
ぼくたちの青春
みんなイカス!

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