あやしい職業


そういえばわたしは父親の職業を知らない。

昔から知らないのだ。と、いうか、何べん訊いてもよく理解できない。
うちの父親は意味不明のことを語る達人なので、聞いているうちにこちらの頭の中にぽんぽんお花が咲き、ちょうちょが舞い、はるか遠くの水平線をお船がぼー、と通っていく。惑乱される。
放っておいてもいちおう生活しているわけだから、それどころか、四年も植物人間をやっていた母親の差額ベッド代を支払い続けていたわけだから、何らかの方法で金銭を獲得しているのだろうが、その手段がよくわからない。

「ぶっちゃけ、パパの仕事ってなんなの」
「ん、お家を再興しちょる」

わからん。

友だちがオレンジ共済でつかまったと言って渋い顔をしていたり、鳩山由紀夫と一緒に写真に写ってたり、デジタルな墓を造ってたり、液晶画面を売ってたり、チャリティの協賛をしていたり、駐車場を建ててたり、寺に寄進してたり、ほんとうに何なのか不明だ。
今日はあっちで会議じゃ、とか、誰それを接待してどこそこに行かにゃならん、とか言って脈絡なく出かけていくが、その前後のつながりがさっぱりつかめない。
たとえばこうだ。

ある日のオトンの行動。
選挙の立候補者とフラメンコ鑑賞→障害者協会の会議でボリショイサーカスのチケットを大量に確保→とつぜん仙台の寿司屋に行ってとんぼ返りする→あやしいネットビジネスの会員をオーガナイズする。
その後、
築地本願寺で法事→トイザらスで遊ぶ→どこかのテレビ局のプロデューサーとプロレスラーを引き合わせる→午後五時から呑み始める→日付が変わるまでに渋谷で5軒ハシゴする→地元の横浜に戻って駅前の酔っ払いを8人引き連れて朝まで無限にハシゴ酒。

どんな毎日なんだ。

小学生の時、お父さんのお仕事はなんですか? と訊かれたら、「かいしゃをけいえいしています」と答えておけばなんとかなった。
あらー、社長さんなのーすごいわねー、で済むのだ。
うん、4回起業して4回倒産してるけどね。
今は何なんだろう。社長ですらない。職種も不明だ。あやしすぎる。

ひるがえって、自分はどうなんだ、と考えてみると。
占い師である。
占いをすることと、占いを教えることで生活を立てている。
純度99.9%、スリーナインの、限りなく100%に近い占い師であろう。

しかし、わたしは初対面の人などに仕事を訊かれると、むぐぐぐぐ、と口ごもってしまう。
占い師です! と元気よく答えて、ろくなことになったためしがないのだ。
えー、なんか怖いー、とじりじり後退していくヤツもいるし、
不審者を見る目つきでじいぃっと眺める者もいる。
逆に、占ってぇー、と手相を差し出すカン違い野郎もいるし、
悩みを一方的に語った挙句「明日までに占っといて!」と言い放つ図々しい人間もいる。

なので、わたしはたいてい「自営業です」とか、「ええと、ライター? みたいな? ものですけど」と曖昧に答える。
「へええ、どんな記事とか書いてるんですか」ぐらい訊かれたら、ちっちゃい声で「まあ主に占い関係ですね」とごまかす。
永続的なつき合いのある人に仕事を隠したりはしないが、営業トークで喋ってるだけの美容師さんとか、大学でたまたま隣に座っただけの人に、ややこしい職業を説明してもはじまらない。
かえってリアクションに困って、気弱げに黙ってしまう人だっているのだから。

しかし、二度、三度と偶然関わっていく人々の中には、
「三上さんっていったい何やってる人なんだろう……」と、訊くに訊けない疑問を抱えている人もいるかもしれない。
昼間からぷらぷら歩き回っていたり、絶対に勤め人じゃない人相風体をしていたり、変なことばかり知っていて話が突飛だったり、そりゃ怪しいわな。

父親の意味不明さを笑えない。
それどころか、
なんとなく遺伝っぽい。


とりあえず、うちの父の職業に関しては、
「フリーの宴会部長」ってことで、納得しておこうと思います。

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